第9話 ページ10
「‥‥そのまま、着てていいよ」
戸惑ったわたしの思考を察知したのか、リュックを背負いながら、付け加えるように言ってくれた。
「‥‥大丈夫なの?」
「どうせ俺帰るだけだし。あと2枚持ってっから」
「‥‥あ、ありがとう、なんか‥‥ごめんね」
「いいよ」
申し訳なくなって少し俯いた。
確かに、濡れた髪から落ちた雫が、肩の部分を少し濡らしていて、返すのも躊躇われたのはある。
きちんとお洗濯して、綺麗にして返そう。
「‥‥帰んないの?」
「‥‥え?」
言われて顔をあげれば、えおえおくんはもう扉に手をかけている。
「あ、帰る、けど、片付けあるから」
「‥‥ん」
「今日はありがとう、また明日ね」
「うっす」
左肩にリュックをかけて、出ていく背中を見送る。
ガラガラと扉が閉まると、
「‥‥‥‥はぁぁああ‥‥」
別に息を止めていたわけでもないのに、長い長いため息が出た。
緊張してた。
ずっと緊張してた。
「(大丈夫かな、変な子だって思われてないかな)」
靴下を履いて、帰り支度を整えながら、えおえおくんがいた時の自分を振り返る。大丈夫、変なことはしてない。大丈夫。ただのクラスメイトだ。
どうにも、男の子との会話に慣れない。身体に変に力が入ってしまって、うまく話せないしもしかしたら顔もずっと力んでたかもしれない。
それに。
「‥‥(‥‥シャツ)」
えおえおくんのYシャツから、ずっと知らないにおいがしている。
洗剤のにおいと、これはなんだろう。メープルシロップみたいな、甘い香り。
いけないとは思いつつも、袖の部分に顔を近づけて、すん、と鼻を効かせてみる。
「‥‥(いいにおい)」
男の子はみんな、こんなにおいがするのかな。
それとも。
「(えおえおくんだから?)」
シャツのにおいが肺を満たすと、
眠そうな目、うなじにかかるふわふわの襟足、骨ばった手。
日々目に止まる、彼のパーツを思い出す。
きゅう、と。
走ってもいないのに、胸が苦しくなった。
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とん - 尊すぎてしにました…ありがとうございます… (2020年7月24日 23時) (レス) id: 3faf487191 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 素敵な作品でした〜読んでいてキュンキュンさせていただきました!!彼の口調とか言い回しが似ていて凄いなと尊敬しました。本当に凄いです!!最近ハマったのですがこれからもっともっとハマりそうです〜!!本当に素敵な作品ありがとうございました!! (2018年9月21日 14時) (レス) id: c0eacb0216 (このIDを非表示/違反報告)
りんご豆腐二世(プロフ) - 返信ありがとございます!!これからもこばやしさんの小説を楽しみにしてます!!頑張ってください(っ`・ω・´)っ (2017年7月10日 19時) (レス) id: 9165d543dd (このIDを非表示/違反報告)
こばやし(プロフ) - りんご豆腐二世さん» コメントありがとうございます!レス遅くなり大変申し訳ありません……!学生時代に赤点を取りまくった国語ですが、ぶっちぎりで褒めて頂き大変光栄でございます!これからもキュンキュンして頂けるように頑張りますっ!!! (2017年7月10日 19時) (レス) id: 110986f160 (このIDを非表示/違反報告)
りんご豆腐二世(プロフ) - 初コメ失礼しますm(._.)mこばやしさんの小説は初めて読んだのですが、文章力が凄く私までキュンキュンしてしまいました!!これからも無理せず頑張ってください!!文章力がなくてすみませんm(;∇;)m (2017年6月26日 15時) (レス) id: 9165d543dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こばやし | 作成日時:2017年5月22日 21時