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あの日から、私は兄者さんとの思い出の消去を試み始めた。
理由は……、兄者さんが私を好きではないと確信したから。
「……っふッ、……っ」
それは中々に辛く、泣かない日はなかった。
それ故に、完全に私情ではあるが目を腫らしたまま会社に行くのは忍びなく、無断にはなるが欠勤を続けている。
pipipipipi……。
「……」
無断欠勤を続けて三日目くらいから、おついちさんからの着信が絶え間なく鳴り続けていた。
出てしまえば最後、おついちさんから兄者さんへと気持ちが流れてしまう。
それは断固避けたい。
「……Aちゃんは……ううん、なんでもない。元気ならそれでいいから。早く元気になってまた会社で会おう!」
この留守番電話を最後におついちさんからの電話ラッシュが途切れ、私も漸く気持ちの決心がつき始める。
「……」
もう、泣くのも疲れるくらい泣いた。
心の休息も十分とった。
あとは、別れを告げるのみ。
そう、思ってたのに。
どうして兄者さんは私を離してはくれないの?
好きではないくせに。
「……ごめん、正攻法で来ても入れてくれないって思って窓から来ちまった」
止まったはずの涙がまた、溢れ始める。
「……わがままだってわかってる。けど、もう一回だけ、俺とやり直してください」
有無もない、兄者さんらしい言葉の中に、漸く私の存在が混ざり始める。
それが酷く嬉しくて、消したはずの思い出たちが甦りはじめる。
「だめ、か?」
「本当に、私でいいのっ?」
口説いと思われようが、確認せずにはいられない。
だって、二度目の裏切りほど怖いものはないから。
「Aじゃなきゃダメなんだ」
「……っ」
涙腺が崩壊したんじゃないかってくらいに溢れる涙が、兄者の表情を曇らせるのに止められない。
早く返事をしないとって焦りはするのに、声が、喉が震えて言葉にならない。
だから、言葉の代わりに行動で示す。
「もう、間違えないから」
「うんっ」
「一生大事にする」
「うんっ」
「だからもう、消えないでくれ」
お互いに、今までのすれ違いを埋めるかのように、泣きながら強く抱き締めあう。
私たちは救いようの無いほど不器用だ。
それは、主に無くされて初めて自分達が存在しているのに気づくイヤホンのように、私たちもまた、失ってお互いが必要だと気づく。
誰にもこの負の連鎖は止められない。
止められないから出会いは奇跡なのだ。
〜fin〜
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作者名:nnanjokei | 作成日時:2018年4月4日 15時