……3兄者さんSide ページ29
Aが意識を手放したのを確認した俺は盛大に荒らした身なりをソッと直し車を走らせた。
何もここまでするつもりはなかった。ただ自分が女なんだと自覚してさえくれれば良かったのに、あんな顔見ちまったら、箍が外れたように襲ってた。
……こんなのただの言い訳か。
後悔先に立たず、まさにこの事だ。
「あんな事やった手前、鞄に手を突っ込む勇気俺にはないわ」
Aが起きるまで待ってようと駐車場に車を止めはしたが降りることはせず、ただ大人しくその時を待つ。
「……」
最初に可愛いなって思ったのは隙だらけの笑った顔。
仕事中に見る顔は常にスケジュールに押されてあっちこっちに飛んでる疲れ切った顔だったから、仕事が大詰めに向けたあの日の偶々みた笑顔は滅茶苦茶ふにゃふにゃで例えるなら餅のような笑顔だった。
俺は、そんな笑顔がもう一度見たくて隙さえあれば声をかけて。でもAが見ているのはいつも弟者で。どこまで仲良くなっても弟者一筋なところだけが変わらなくて、俺も視野に入れて欲しくて偶然会えたのを利用して声かけたら案の定、弟者に負けて悔し紛れに襲ったんだ。
「……泣くくらいなら、襲わないでください」
「……」
自分の不甲斐なさに、Aに嫌われたかもしれない不安に気付かぬ内に流れた涙。
俺が気づかなかった涙をAは気づき拭う。
人は驚いたら涙すら止まるとはよく聞いたけどそんなのは嘘かもしれない。
「……っ、みっともねぇなっ」
「何がですか」
「俺から言わなきゃわかるわけねぇのにッ勝手にッ嫉妬して!挙句……ッ」
「……」
子供みたいに泣きじゃくった俺を、Aは抱きしめ何かを言った。Aから出てきた言葉はとても弱々しく、上手く聞き取れなかった言葉たちの中に、確かにごめんなさいの一言があったことだけはわかった。
それだけで俺が失恋したんだってわかる。
「……必ずしも憧れと好意が紙一重とは限らないんですよ」
“自惚れてもいいなら、私たちは両想いだと言ってください”
俺と一緒に涙を流しながら、先より強く抱きしめたA。その言葉の意味を理解し力なく垂らしていた腕を上げ抱きしめるまでに数秒とかからなかった。
「俺は!Aが好きだ!ッ大好きだ!」
「私も!兄者さんのッことが大好きです!」
ロマンチックのかけらもない告白劇の終止符は、数分後になる携帯の着信音によって終わりを告げる。
「兄者、今日何の日か覚えてる?」
〜fin〜
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作者名:nnanjokei | 作成日時:2018年4月4日 15時