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セジンさんには入社する時に一度会って、なぜ私に声をかけたのか率直に尋ねた。
S「だって、Aさん、ちゃと約束守って誠意を見せてくれたから、今度は俺が返す番だと思ったんですよ」
ニコニコと、春の木漏れ日のような笑顔で答えたその言葉に、私は首を傾げた。
『返す?』
何かそんな約束してましたっけ?と首をかしげる。
確かに私は、関わらない約束をしたけど、セジンさんはしてなかったはず。
疑問がそのまま顔に出ていたらしく、セジンさんは私の肩を安心させるように
S「誠意の話です」
と言って、私の肩にそっと手を置いた。
S「Aさん、今の仕事が生きがいで、失いたくないって言ってたから。」
セジンさんの、私の肩にある手がとても暖かいから。
掛けられた言葉が、あんまり優しかったから。
眼差しが、私にはもったいないくらい、いたわる気持ちに溢れてたから。
涙腺が、急に仕事をし始めた。
あの日社長の号泣のせいで引っ込んだ涙が、いそいそと頬を伝う。
私は両手で顔を覆ってそれを隠して、背の高いセジンさんの声を頭のてっぺんで聞いた。
S「会社変わるけど、仕事内容似たようなもんなら、いいよね?」
『惚れてもいいですか?』
ずび、と鼻声で告白したら、
S「あ、ごめん僕彼女いるから」
あっけなくフラれた。
S「あと、その声風邪じゃないんだね」
『風邪じゃありません、地声です。産まれた時からこの声です』
私のてっぱんの受け答えを、
S「そんな声の赤ちゃん、面白すぎる」
そう言って笑ってくれた。
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作者名:フネ55 | 作成日時:2022年12月7日 14時