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『…すみません…』

小さく声を掛けると、ぎくりとすくむ気配を感じた。

無言が続き、私は仕方なくもう一度

『すみません』

と声を絞り出した。

「…話せるの?あなた誰ですか?なんでこのフロアに来れたの?ライブのスタッフ?」

苛ついた声に矢継ぎ早に尋ねられる。

私は目は開けられず、吐息のような声でかろうじて返事を返した。

『スタッフです…大道具所属です…エレベーター、間違ったみたいです…ご迷惑を、おかけしてほんと…少し、休んだら、部屋に、戻りますんで…』

「て言うか、風邪?すごい声なんだけど」

横になったおかげで、少しずつ楽になってきた。

相変わらずまぶたは縫い付けられたように開けられないが、意識は冴えて周りの音もよく聞こえる。

『…風邪じゃありません、地声です…生まれた時からこの声です…』

一瞬の沈黙のち、爆発的に聞こえてきた特徴的な笑い声は、本当にどこかで聞いた覚えがあるような、無いような。



「あひゃあひゃあひゃ、面白いじゃん」



さっきまでのひりつくような嫌悪感と警戒感が溶けたのを感じて、少しほっとした。

もう少し休めたら、なんとか歩けるだろうか、と手足を動かそうともぞもぞ動くが、上手くいかない。

その様子を眺めていたのか、別の方向から、はあ、とため息が聞こえて、体を引き起こされた。


そういえば、もう一人いたんだ。





「俺、この人送ってきます」

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作者名:フネ55 | 作成日時:2022年12月7日 14時

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