アイロニックセオリー (ページ10)

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「んーん。都里煙草苦手だから」

「都里の前では吸わないし、あいつも俺が辞めたと思ってる」

『実際には辞めないんですか？』

「…」

「煙草ってさ、恋人みたいなもんなんだよね」

『恋人？』

「そう。なくても生きていけるけど、あって欲しいし必要なもの。…手放せないもの」

『…へー』

都里さんと重ねて話しているのか、愛おしそうにライターを見つめる。

昔どこかで聞いた「あなたの吸う煙草になりたい」というセリフの気持ちが少しだけわかった気がした。

　「おー、二人ともおかえりー」

『ただいまです、』

「酒くせーっすよ、めっちゃ」

「明日ちゃんと来れんすか？」

　「だーいじょうぶだって」

　「それより樹くんも飲む飲む。ほら」

席に着くとグラスは空になっていた。

(…なに頼もう)

　「杭瀬ちゃーん、飲み物なくなっちゃったの？」

『え、あ…はい、』

急に肩を組まれたと思ったら片手にグラス、ぷんぷんお酒の匂いがする息。

(なんか嫌な予感)

　「Aちゃんも飲みなよ、ほら」

『でも、私未成年なので…』

　「1年や2年なんで誤差誤差」

　「ほら、あの子たちも飲んでるしさ」

『えっ…と………』

確かにあそこらへんの同い年の子達は飲んでるし、よく見たら年下の子だって混ざっている。

でも、普段優しいパートさんが少し怖く感じてしまうお酒も怖いわけで。

「ほーらっ」