【銀魂】化けの皮【土方十四郎】

ヤケ酒 ページ9

「――お嬢ちゃん、男かい？そんなに荒れちまってるとなると」



――と、眉間の皺を史上最高の深さにしていた私にかけられた声がひとつ。顔を上げれば店主が呆れたように笑いをこぼしていた。




「間違っちゃいないけど語弊はある」


「そうかいそうかい、いいねぇ若いってぇのは」
「だからそういう話じゃないんだけど」


「でもアレだよ嬢ちゃん、どんな男に惚れてんだい」


「話聞いてもらえるクソジジイ」




どうにもこちらの話を聞く気がないらしいこの店主。お前この店に私以外のお客がいない理由多分お前だぞ。

まぁストレス発散のはけ口にくらいなってくれるか、なんて私は口を開いた。




「――惚れてはないけど、原因の男はニコチン中毒で目つき悪くて味覚死んでてキレやすいクソ男」


「男前かい？」


「……あぁそりゃぁもう、とんでもないレベルで」


「お熱いねぇ」
「ぶん殴るぞ」




イケメンだ男前だというのは貶し言葉なのである。お熱いどころか冷戦だ。

一方店主は「嬢ちゃんその男とナニがあったんだい」と下衆な視線を向けてくる。




「殺すよ。ただ嫌いあってんのに好き合ってるふりしなきゃならなくなった」


「そりゃ大変じゃねぇかい」


「だからこうやってヤケ酒してんでしょうよ」




そもそも私は酒を好まないのだ。弱いわけではないけども好きではない。それがこんなところへ来てしまうくらいにはストレスが溜まっているのである。

空になりかけたジョッキを、なんともなしに見つめていると。



「――だが嬢ちゃん、本当にその男のこと嫌いなのかい？」

「……はぁ？」



そんな風に、問われた。

……そんなもん、決まっている。




「…きらい」


「だとしてもだ。――それだけじゃ、ねぇんだろ」


「……何のことだかさっぱり」


「酒の席でとぼけちゃいけねぇよ」




――なんだ、これは。亀の甲より年の功というやつか。還暦をとうに過ぎているだろう店主の笑みは小娘ひとりの内心くらい見透かしきっているような気がした。




「……何が言いたいの」


「どうにもなぁ。嬢ちゃん、その男の話するときは憎みきれないって顔してるぞ」


「…憎みきれない？」


「憎まれ口叩きながら、そう悪く思っちゃいねぇ顔」




思わずというか、店主から顔を背ける。付け足された「俺が嫁さんに惚れる直前の顔」なんて言葉に漸く「な訳あるか」と返し。



「ないない、多分」



ジョッキを空にした、深夜なのであった。

健康体を取り戻せ→←ストレス発散

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す