溢れ出したもの ページ32
「･･･なんだ」
いつものように、お酒を少し飲み込んだのち、そう言った高杉さん。
それを聞きながら、私は静かに息を吸う。――もう溢れてしまっているのだ。溢れた感情が、言葉になりたがっている。･･･そして。
そして私も、もうそれを抑えるのはやめた。
「――――貴方が世界を壊したいのは、わかっています。護るものを必要としないことも」
――広い部屋の中、暗闇にぼんやり灯る灯りに照らされて。
「･････壊して、いいですから。護らなくて、いいですから。――だから」
――傍にいることだけ、お許しいただけませんか、なんて。
言い切った私を、高杉さんの吐き出す紫煙が包む。後悔も動揺も不思議とやってこなかった。
溢れたそれらを形として、なんだか私はむしろすっきりとしている。･･･これが本当に“吹っ切れる”ということだろうか、などと少し苦笑を零していると。
「････護るなたァ、剛気じゃねェか」
――静寂に声を落とすように。･･言ったのは紛れもなく高杉さんであり。
･･･剛気？
「そう、でしょうか」
零した苦笑を浮かべたまま返した。彼の方を窺えば、どこか機嫌よさげで。
「――仕方あるめェ」
高杉さんは、微かに口角を上げた。
「･･･それは、つまり」
どういうことでしょう、と首を傾げる。――彼は、その機嫌よさげな笑みを消さぬまま。
「･･･覚悟、出来たようだしなァ？」
「――･･･は･･？」
仕方あるめェ、なんて彼はくくと笑った。
「――こと切れる瞬間まで、傍に置いてやらァ」
――例えば、世界を壊さんとする彼とそれを見届けんとする私の間に、綺麗事は通用しないけれども。
･･･今この瞬間、その人の口から発されたそれは。
「･･――ありがとう、ございます」
――どんな愛の言葉より、どんなに綺麗な出来事より。･･･私の胸に、強く響いて。
「本当に、ありがとうございます」
きっと、この先彼が歩もうとする道は困難だらけだろう。――困難だらけの中に、少しだけ。
少しだけ私の姿が垣間見えてくれたら。彼の頭の、隅の方でいいから。･･･そこに私という存在が位置していたら。
･････それなら、いいなぁ。･･そんな風に、私は。
――――私はやはり、笑って。
「――ならば、こときれないよう尽力致しますね」
いつものように、お酒をまた注ぎ足したのだった。
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ユイ - 完結おめでとうございます。とても素敵な作品で、最初の方から休まず一気に読んでしまいました。それに、描写がとても綺麗でもあり、妖艶で惚れました。最高です。 (2019年10月20日 10時) (
レス) id: 7837a845b7 (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - 流れるような描写がすごく綺麗でした！読了後に「色は匂へど散りぬるを」の最初の方を読み返して夢主の成長を感じ、色んな意味で強くなったなあ、なんて思ってしまいました。最後に、素敵な作品をありがとうございました！ (2017年5月9日 18時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち - 完成おめでとうございます！初めて見たけど面白かったです!! (2017年3月26日 18時) (レス) id: 8a0b328429 (このIDを非表示/違反報告)
碧瀬(プロフ) - とても素敵な作品でした。完結おめでとうございます。 (2017年1月29日 1時) (レス) id: 33020b63e9 (このIDを非表示/違反報告)
呪者 - あぁ！高杉むずかしい！完結おめでとうございます！(^^) (2016年8月24日 10時) (レス) id: e80216b179 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：中村
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakamura_/
作成日時：2015年3月23日 23時
