持ち合わせていなくとも ページ13
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――がちゃり、ぎぃ。
重苦しい音を立てて開く、目の前の扉。
・・・初めて裏切り者の彼女を目にしてから一夜明け、尋問が始まる今日。来島さんと話し合いの末尋問の初日を担当することとなった私は例のあの部屋の扉を開けているのだ。
昨日と変わらずゆっくりゆっくり開いていくその扉の向こう、またこちらを睨みつけている彼女へ少し微笑んで。
「――こんにちは」
そんな挨拶をした。・・もっとも宇宙では昼も夜も関係ないし、この部屋など小窓さえないのだから意味のないことなのかもしれないけれど。
ともかく、いたって友好的な挨拶をした私。・・・しかし。
「・・・・・」
彼女はむすっとしたまま口を結んでいる。
・・まぁ、暴言が繰り出されなかっただけマシなのかもしれない。
「――お名前は?」
一歩部屋の中へ足を踏み入れ、後ろ手で扉を閉める。・・ばたんとそれが閉まる音がやけに響いたような気がした。
「・・・名前?」
「・・そう。――私は、Aです」
「・・・・・・・・・誰が教えるか」
不機嫌そうに顔を背けた彼女。・・・やはりそうか。
彼女は私の思った通り名前を教える気がないらしい。・・でも。
「・・御免なさい、無刹さん」
「――な・・ッ」
・・・私は彼女の名を知っている。
――無刹。ムセツ。
ピンクがかった肌に赤い髪、端正な顔。・・・武市さんは彼女をとある星で春雨に拾われた新種の天人だと言っていた。その戦闘能力から重宝されていたと。
「・・・・・実は他の方から教えて頂きました」
「・・・これだから春雨は・・」
眉根を寄せて吐き捨てるように無刹さんは言う。
「嫌いだ。春雨もあんたらニンゲンも」
「・・・嫌いだから、裏切ったの?貴女は」
「それ以外に何か?あたしは春雨が嫌いだ」
「・・嫌いだから、殺そうと?」
――彼女は春雨を裏切った。どう“裏切った”のかといえば上司を殺そうとしたらしくて。
それで捕らえられていたところを何者かが逃がしたのだ、一度は。ここの部屋の扉が厳重に封じられているのだってそのせいである。
「・・・・・悪い?」
「・・私は、それを悪いと言えるほど綺麗ではありません」
「・・・・なら―――」
「だけれど」
じぃと、彼女を見つめて。
「――綺麗さを持ち合わせていなくとも、それを“悪い”と言ってしまう方ばかりでしょう?・・ここに、いるのは」
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ユイ - 完結おめでとうございます。とても素敵な作品で、最初の方から休まず一気に読んでしまいました。それに、描写がとても綺麗でもあり、妖艶で惚れました。最高です。 (2019年10月20日 10時) (レス) id: 7837a845b7 (このIDを非表示/違反報告)
Physics(プロフ) - 流れるような描写がすごく綺麗でした!読了後に「色は匂へど散りぬるを」の最初の方を読み返して夢主の成長を感じ、色んな意味で強くなったなあ、なんて思ってしまいました。最後に、素敵な作品をありがとうございました! (2017年5月9日 18時) (レス) id: 28db851a9c (このIDを非表示/違反報告)
きなこもち - 完成おめでとうございます!初めて見たけど面白かったです!! (2017年3月26日 18時) (レス) id: 8a0b328429 (このIDを非表示/違反報告)
碧瀬(プロフ) - とても素敵な作品でした。完結おめでとうございます。 (2017年1月29日 1時) (レス) id: 33020b63e9 (このIDを非表示/違反報告)
呪者 - あぁ!高杉むずかしい!完結おめでとうございます!(^^) (2016年8月24日 10時) (レス) id: e80216b179 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:中村 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nakamura_/
作成日時:2015年3月23日 23時