生まれてきてすみません。。

三十話。 ページ32

Aside

　

夕方になる頃に鱗滝さんの家に戻った。

自分を信じる、か。

真菰さんや他の方々は心配なんだと何度も、本当に何度も言ってくださった。

私などを友達と呼んでくださった。

どうしようもなく、胸が痛くなって苦しくなって…どこか温かくて。
どうしてなのかな。

　
「…鱗滝さん？どうかされたんですか？」

　
夕飯を作っていると鱗滝さんの様子が変に感じた。

どうかしたのだろうか。

　
「匂いだ。

追っ手が来た。大勢だ。
逃げろ、A。だが…まだかなり遠いな。どうやってここが分かったのか…。

こっちに来い。」

　
追っ手。

柱の方々だろうか。あの方々は優しいから。私などの者は放ってはおけないだろう。

私のせい、で鱗滝さんにまでご迷惑をおかけしてしまう。

　
鱗滝さんについていくとそこには羽織と荷物を入れる風呂敷があった。

　
「万が一のために用意しておいた。

この羽織は特別製でな…顔が隠れるように頭巾をつけさせた。
元柱なら鬼殺隊の者には顔が割れているだろう。

それからこっちの方は刀を入れる。
帯に差してその上から羽織を羽織れば隠せるだろう。」

　
そう言って渡された羽織。

色は濃紺で鮮やかな華が描かれている。どこからどう見てもいいものだ。
鱗滝さんは素知らぬ顔で刀を袋に入れている。

　
「こんな高価な物、いただけません…。
何故、ここまでしてくだるのですか。」

　
「…A、お前は儂の娘のようなものだからな。

大切なんだ。

お前には生きていてほしい。
お前は自分の命に価値を見いだせないだろうが……お前は凄い子だ。

一人でずっと辛抱して…。

お前は一人じゃない。

　
炭治郎たちがお前の無実を証明し、お前の身が軽くなったらまたここに戻ってこい。
ここがお前の居場所だ。」

　
「…はい。」

　
刀を帯に差してもらった。風呂敷に入っている荷物も受け取った。

生きていてほしいと言われた。

私などがそんなことを言われてもいいものなのだろうか。でも、この人は嘘は言わない。

また、胸が痛くなって苦しくなって…温かくて。妙になる。

　
「…後はこれだな。
厄徐の面だ。

着けたら儂との関わりがばれるだろうから勧めはしないがこの面は厄からお前を守ってくれるだろう。

持っておけ。山から逃げるといい。霧が深くて追えないだろう。

…達者でな。」

　
「…はい、ありがとうございます。」

　
「必ず、生きて戻れ。」

　
最後に頭を撫でられた。

私は狭霧山に入った。

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