愛しいもの (ページ50)

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F ページ50

at near future

Ki「あー…、じゃあ…」

「うん…、じゃあ…」

静かな玄関に、向かい合って姿勢を正した。

Ki「…世話になったよな」

「…ん」

Ki「…もう、行くべ」

「…ん」

じわりと目元が熱くなる。

動き出せない足に、うつ向いてつま先を軽く睨んだ。

Ki「…あのなぁ…」

おい。と頭を軽く叩かれて、この数年で少し大人の色気が増した顔をチロリと見下ろす。

「…だってさぁ」

Ki「だってじゃねえよ。ほら下でよこーさん待ってっから早くしろよ」

…情緒ってもんがないのか。

遠慮も減って素直さを全面的に出してくれるようになった、アラフォーのくせに相変わらず愛らしい顔に、こっそり溜め息をこぼす。

もう一度振り返ったガランとした空間に、俺たちの声が響く。

一緒に暮らし始めて、何回かの同じ季節を通りすぎた頃、その話が出た。

じわりと胸に色んな感情が甦る。

今までの生活に、何の支障も問題もなかった。

ケンカも甘い時間も仕事の話も個人の仕事の準備も…。

だけど…。

友人の多い北山、交友範囲の相変わらず狭い俺との間には、少々避けられない問題が生じていた。

Ki『だったらさ…』

ある日切り出してきた北山の提案に、正直直ぐに首を縦に振れなかった。

色んな柵が多い。
例え、どんなに幸せでどんなに味方が多くても。

Ki「ふじがや？おーいー、おまえさあ、この期に及んでまだ渋るの？諦めわりーなー」

「ちがうよ…」

憎まれ口をたたいてるクセに、ほんの少し不安げに揺れる瞳を腕のなかに閉じ込めた。

「ふふ…叶っちゃったね？」

頬を擽る柔らかい髪にそっと唇を寄せると、小さく鼻を啜って甘い吐息が胸に落ちた。

Ki「当たり前だろーが。叶えたきゃ叶うんだよ」

「あはは…確かに」

頼りになりすぎるこの愛しい恋人の、何年か前に離れかけた手を取ってよかった。

Ki「よし！もー行こうぜ？俺さぁ、明後日には地方ロケだから片す時間ねーんだよ」

「…俺明日、朝から撮影だけど？」

Ki「…ですね。って、なら急げ…」

一緒にいることの大切さを知れたこの場所で、愛しさを溢すその唇を塞ぐ。

Ki「…行くぞ」

「はーい」

いつまで経っても照れるその背中を、お互いに守れるようになったから…。

Ki『俺たちの家…買わねえか』

これからまた、新しく始まる生活に

愛しいものを更に増やそう。

「ありがと」

小さく告げれば、愛しい柔らかい笑顔が返ってきた。

love life goes on …