愛しいもの (ページ27)

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Ki ページ27

at ３時間後

S〔もうすぐ着くよ！〕

「はいよ」

LINEの通知に声で返しながら、スマホをポケットに突っ込み玄関に向かった。

最近気に入ってる靴を履いて、屈んだちょっと怠さが残る腰を上げて、手にしたハットを被るかちょっと悩む…。

『もうっ、またそのまんま出るの！？』

はいはい、そうですよね。アイドルですものね。

後でセットするからいいのに…。

って思いながらも律儀に軽く頭に乗せた。

「いってきま……あ」

…うーん。

「クセってこわいわ～…」

思わず斜め上を見上げそうになる目を玄関に向けて、鞄を担ぐ。

『いってらっしゃい。また後でね』

頭ん中に浮かぶ声に、緩む口許を締めて家を出る…。

毎度毎度、誰も見てないのに玄関を出れば顔が熱くなって下を向く。

まぁでも…ちょっとだけ…、悪くねえなーとか思ったり…。

「はよーす」

S「おはよ。ひろみつ」

迎えのバンに乗り込めば、ユルく笑ういつもの挨拶になんだかつられて口元が緩んだ。

S「…ふふ」

「…なに？」

…へんなヤツ。

ムフムフ笑う顔にチラリと視線を流せば、チョイとほっぺたをつつかれた。

…なんだっつの。

「んだよ、やーめろ」

S「ん？…へへ。今日調子良さそうだね？お肌も良い感じっ」

「はあ？」

まぁ…ビミョーなトコが違和感残ってるけど…、確かに疲れちゃいないし眠くもないな。

S「だってさ、大体…うーん週に2日？3日？くらいは寝不足っぽいじゃない？」

「そうかー？たまたまじゃね？」

S「違うね！ひろみつが自覚ないだけじゃん」

んなことないんだけどなぁ…。

「そうかねぇ…」

S「そうなのっ…あ！でも…ふふふ」

「あんだよ」

ニヤニヤ笑い始めた顔を睨む。

S「ん？なーんか同じタイミングで同じ感じの人、もう一人いたなぁって…ふふ」

「……は？」

S「やだもう！二人して。きゃー」

顔に手を当て悶える盛大な勘違いしてる変なヤツに、ポカっと開いた口を塞ぎそびれた。

…いや、それ逆だし。

週に2、3日は、それぞれ別行動だし…。

それ言ったら週に4、5日だし。

なんなら今朝なんて…ベッド抜け出すまでスゲー大変で…。

S「もー寝不足になっちゃうくらいとかっ、もーっ」

…あ。

…なんだ…そっか。

S「ちょっそっちまで顔赤くなんないでよ！」

…そりゃ寝不足っぽい感じになるよな。

だって…、足りてねえもん。

俺の…週の８割を占める日常は

確実に…

藤ヶ谷に満たされてるんだから…。