愛しいもの (ページ18)

今日:1 hit、昨日:11 hit、合計:516,836 hit

2 ページ18

at …

「ねえ…ホントに大丈夫？」

Ki「ん。はは…わりぃな。情けねえとこ見せちった」

「…情けなくなんかない」

Ki「いやいや。はぁ～年かねえ…」

「やめてよ。いーのにたまには…」

ちょっと腫れて赤くなった目許を擦る手をぎゅっと握ると、緩く笑う顔が横に振られた。

Ki「はは…ありがとな？でもあんま見せたくねえんだ。…分かれって」

「…ミツ」

するりと抜けた手を追って、そっと掴んだ。

いつもは温かい手が、少し冷たく感じて胸が痛かった。

変な下心なんてなかった。

冷えた手を温めてあげたくて…。

ミツの全身から伝わる心の痛さを和らげてあげたくて、ちっちゃいけどしっかりした肩を腕んなかに包んだ。

Ki「…に、か？」

「ミツ…一緒に帰ろう？ひとりになっちゃダメだよ」

ピクリと腕のなかの肩が震えた。

…俺じゃ役不足かもしんないけど、一緒にいてあげる事くらいならできる。

Ki「あんがと…」

ちょっとだけ震える手に、背中をポンポンと柔らかく叩かれた。

腕を解いて見せた顔は穏やかに俺を見て笑った…。

Ki「ごめんな？今俺、友達でも家に呼ばないようにしてんだ」

…じゃ、俺んちおいでよ。

なんて言い出せなかった。

ミツの言葉の向こうにある意味に、ばかな俺でも気付いてしまった。

ミツが、何の…誰のためにひとりでいるのか。

甘えたがりでさみしがり屋のクセに…。

「そっか」

だから笑って答えた。

ミツが大事だから、ミツの気持ちを無理やり曲げたりしたくなかった。

Ki「…俺も嬉しかったよ」

タクシーに乗る間際に見せてくれた笑顔。

俺にはそれだけで充分だった。

ミツには沢山の大切なものをもらった。

「俺からミツにあげられるもの…」

スマホを取り出して画面をタップした。

呼び出し音に固唾を飲んだ。

…出てくれるかな。

ちょっとだけ、後悔が沸き上がる…。

もし…ダメだったらまたミツは…

『…はい』

出た！

耳に届いた低く落ちる声に苦い笑いが零れた。

あーあ。きっと玉がなんかやらかしたな…。

「ガヤ？今どこにいんの？」

F「ぇ…」

「まだ店？」

F「いや…えっと…」

「なあーんだ。フラれちゃったからそっち行こうと思ったのに！」

F「…な、に言ってるの、ニカ」

「なんかちっちゃい人がさぁ、家…誰も上げたくないんだって」

「…誰かさんが戻ってくるまで」

息を飲む気配がした。

あとひと押し…かな。

待っててミツ。

もうすぐ届けるから。