182 『A sense of』 ページ6
.
金は奢ってくれんのか。
冗談半分でそう訊く。頷いてくれたら儲けもんぐれぇの話だ。義勇は予想通り、ふるふると首を横に振った。……どうにもコイツはガキみてぇな仕草が目立つな。これで二つも年上ってんだから、はあ、世の中は信じられんな。嘘と虚構ばかりの世界だ。
下に人がいないことを確認し、足音を響かせないように注意して降りた。義勇が降りてくるのを待ってやろうと思い上を見上げると、既にその姿はない。半ば予想ができていながら、目の前に視線を寄越す。いた。
「……ふん」
「────」
自分が不機嫌になった理由がわからねぇらしく、無言で此方を見据える蒼い瞳。にらめっこでもしてやろうか、と思ったが、自分に分はなさそうだったので止めた。この
──何処へ行きたい?
軽く鼻歌を歌いながら足を進めて訊く。後ろで身動ぎした気配と困惑が共に滲みだしたので、後ろを振り返る。碧眼は戸惑ったように揺れており、それは彼が滅多に見せない当惑の表情だ。
驚いたのは此方の方だった。義勇は滅多なことでは表情筋や顔の部位が動かないし、動いたとしてもそれは眉を顰めるとか、少し頬が緩むとか、それぐらいしか自分は見たことがない。驚いた表情を見たのはいつ振りだ?
「一緒にいてくれるのか」
「────」
ぐ、と自分でも眉根が寄ったのがわかった。それを見て妙に慌てたように義勇は自分の手首を取る。
「いや。──違う。一緒に、いてくれ」
別段、聞かなくてもいい言葉だった。今訊ねたことはただ単に気紛れだっただけで、もうコイツのことをとっとと見切っても良かったのだ。実際今までも何度もそうしてきたし、此処でそうしない理由はない。
猫みたいじゃな、と揶揄されたことがある。あっちへ行ったりこっちへ来たり。それを特に否定するでもなく過ごしてきたが──どうやらそうでもないらしかった。「今日だけだぞ」という言葉に、義勇は目を細めた。
──何だ。コイツの方がよっぽど、猫みたいじゃないか。
自分の言葉がソイツに届いてたかどうかは知らない。
掴まれた手首を一度振り払って、足を進める。義勇は少し距離を開け、隣を歩く。
自分が好きな、距離感だ。
.
475人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白夜の世界(プロフ) - すみた先生さん» そうですね!いや正にその通り!(笑)剣士は他の鬼殺隊員を嫌っていましたが、あれは同族嫌悪というのも多少入っていたんですね。本人に自覚はないですが。過去を経て人間は変わるのに、今の剣士(?)は記憶がないですから。理解しようもないって話です。 (2021年1月14日 18時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
すみた先生(プロフ) - 白夜の世界さん» 答えていただいてありがとうございます!話が変わりますが、記憶を失った主人公が過去の自分を嫌ってるのって、周りと同じ一般的な感覚を持ったからなんだろうなぁ。とか、周りから見た主人公ってこうだったのかなぁとか勝手に思ってます。更新お疲れ様です! (2021年1月14日 18時) (レス) id: 16cbe631bd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - すみた先生さん» ネタバレになるので嫌だ、という方がいるかもしれませんので誰オチかは答えられません。ですが一つだけ言っておきますと、自分の作品読んで来た方はわかります。大正解、同じパターンです(笑)。 (2021年1月9日 20時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
すみた先生(プロフ) - 大っっっ好きです!!(唐突)言葉選びといい情景描写といい最高です!個人的に気になっているのですが、この作品で誰オチとかはありますか?できる範囲でいいので教えたいただきたいです! (2021年1月9日 20時) (レス) id: 16cbe631bd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - 紗夜菜さん» ハイハイもう此処でこうなるんだろ?わかってんだよという展開を覆したい性癖の作者です、どうも(笑)。剣士にとって良かったかはわからないですが、周りの人間とのタイミング的には最悪だったと思いますよ。冨岡とか特に。 (2021年1月8日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2020年12月20日 17時