181 『どちらかといえば養殖』 ページ5
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冨岡はその問いを真面目に考えているようだった。そういう処も反吐が出る。真面目腐った偽善者め。つーか何だその顔は。何考えてるんだお前。むしろ何も考えてないのか。……そっちの可能性の方が高いな。
脳内であらかた冨岡を罵倒し終わった頃に、ようやく彼は問いの答えを見つけたようだった。顎から手を離して、Aの顔を見据える。そして口を開く。
「わからない」
「突き落とすぞてめえ」
手を前に突き出すAと、その手首を掴んで踏ん張っている冨岡。傍から見れば拮抗しているように見えるが、その実冨岡の方がかなり優位である。
自身が全力を出しても勝てないことがわかり、Aは掴まれた手を振り払った。冨岡の体に当たる寸前、軽く重心をズラして避ける。まるでAが不機嫌になる理由にわざわざ薪をくべにいっているようにしか見えず、「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜」とクソデカ溜め息と共にストレスを吐き出した。
「ただ、逃げられたくはない」
「……、じゃあ、何がしてぇんだよ」
「お前が楽しむことをしたい」
「────」
冨岡の即答に、Aは虚を突かれた表情で瞠目した。それからゆっくりと間抜けに開いた口を閉じていって、「ぶはッ」と笑いを噴き出させる。
彼にとってそれは至極正直な意見であったが、涙が出るほどに笑い飛ばされ困惑するのは当然のことだった。己としては限りなく嘘をついていない答えだ。──嘘をつく答え、というのもよくわからないが、少なくともそのはずだ。
ひぃひぃと半ば呼吸困難に陥りながら、Aが笑い転げるのを黙って見つめる冨岡。彼女が屋根から転落しそうになってようやく手を貸した。もっともその手は振り払われたが。
「は……、はあー。久々に笑ったよ。お前、あれだな……、ド天然だな」
「──? 養殖の覚えも、天然の覚えもないが……」
「ぶはぁッ」
不可解そうに頸を傾げて返答した冨岡に、Aは今度こそ強烈なまでに噴き出して地面(屋根)をばんばん叩きながら笑い転げる。下から「上に誰かいんのか!?」おいう声が聞こえて来て、ようやく彼女は大人しくなった。
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白夜の世界(プロフ) - すみた先生さん» そうですね!いや正にその通り!(笑)剣士は他の鬼殺隊員を嫌っていましたが、あれは同族嫌悪というのも多少入っていたんですね。本人に自覚はないですが。過去を経て人間は変わるのに、今の剣士(?)は記憶がないですから。理解しようもないって話です。 (2021年1月14日 18時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
すみた先生(プロフ) - 白夜の世界さん» 答えていただいてありがとうございます!話が変わりますが、記憶を失った主人公が過去の自分を嫌ってるのって、周りと同じ一般的な感覚を持ったからなんだろうなぁ。とか、周りから見た主人公ってこうだったのかなぁとか勝手に思ってます。更新お疲れ様です! (2021年1月14日 18時) (レス) id: 16cbe631bd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - すみた先生さん» ネタバレになるので嫌だ、という方がいるかもしれませんので誰オチかは答えられません。ですが一つだけ言っておきますと、自分の作品読んで来た方はわかります。大正解、同じパターンです(笑)。 (2021年1月9日 20時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
すみた先生(プロフ) - 大っっっ好きです!!(唐突)言葉選びといい情景描写といい最高です!個人的に気になっているのですが、この作品で誰オチとかはありますか?できる範囲でいいので教えたいただきたいです! (2021年1月9日 20時) (レス) id: 16cbe631bd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - 紗夜菜さん» ハイハイもう此処でこうなるんだろ?わかってんだよという展開を覆したい性癖の作者です、どうも(笑)。剣士にとって良かったかはわからないですが、周りの人間とのタイミング的には最悪だったと思いますよ。冨岡とか特に。 (2021年1月8日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2020年12月20日 17時