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210 『恐慌』 ページ34

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 そこにあったのは──そこに存在したのは、ただ、純然たる恐怖でしかなかった。



「────ッッ!!」



 目覚めた──『目覚めた』という感覚。それにすら恐怖を覚えた。目覚めてしまったら、恐怖を感じるしかなくなる。それは嫌だ。それは死ぬぐらいに嫌だ。──嘘だ、死ぬ方がもっと嫌だ。

 意識が朦朧としている。視界は酷く揺さぶられていて、叫び声が何処か遠くで響いていた。全ての感覚と意識の間に、一つ壁があるような感覚だ。その壁を打ち破って感覚が迫って来ている。それらは知覚を求めている、それらは理解を強要してくる。


 いやだ、やめろ、いやだ。

 手あたり次第に抵抗した。何に抵抗するのもわからないまま抵抗した。何かが手に当たる。喉が千切れそうなばかりに絶叫して、それを投げつけた。声が、遠くで、響いていた。

 思考が千々に乱れる。思考の間に記憶が生まれ、記憶の間に思考が挟まれる。それは、敵だ。自分を害する存在なのだ。戦う──戦う? そんなこと、無理だ。戦うなんてことしたら、痛いではないか。苦しいではないか。死ぬかもしれないではないか。




「────ッ!」




 逃げろと声がする。頭の中の声だ。外の声は、二つある。胸を掻き毟るような慟哭と、切実な安らぎの声。理解をしようとして、本能がそれを止めた。

 ダメだ、それはダメだ。それを理解したとて傷つけられるだけだ。傷つけられて、殺されるだけだ。殺されるんだ。殺される前に。殺される前に殺さなきゃ。


 獣のような闘争本能を剥き出しにして、それでも世界は理解を迫った。無理解だ、と拒んでも、徐々に視界は明確になり、感覚は痛みをわからせ、聴覚は制止の声を聞かせてくる。

 足は何度か転んでいたのか膝を擦り剝いており、腕からは鋭いもので切れたように出血している。近くに花瓶の破片があるから、それで切ってしまったのだろう。辺りはまるで台風でも来たかのようにめちゃめちゃであり、自分の血液がパタパタと地面に散っていた。



 尚も暴れようとする彼女の体を、「落ち着けA──落ち着け!!」と怒号を飛ばし制止する声。強烈な力で羽交い絞めにされ、もう行動が起こせない。


 くたり、と力を失った体。後ろで羽交い絞めにしていた青年が、ほんの少しだけ力を緩める。




「……A?」

「────」

「Aさん……」




 少女は震える唇で、言を紡いだ。









「──だ、誰だよ、あんたら」








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白夜の世界(プロフ) - すみた先生さん» そうですね!いや正にその通り!(笑)剣士は他の鬼殺隊員を嫌っていましたが、あれは同族嫌悪というのも多少入っていたんですね。本人に自覚はないですが。過去を経て人間は変わるのに、今の剣士(?)は記憶がないですから。理解しようもないって話です。 (2021年1月14日 18時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
すみた先生(プロフ) - 白夜の世界さん» 答えていただいてありがとうございます!話が変わりますが、記憶を失った主人公が過去の自分を嫌ってるのって、周りと同じ一般的な感覚を持ったからなんだろうなぁ。とか、周りから見た主人公ってこうだったのかなぁとか勝手に思ってます。更新お疲れ様です! (2021年1月14日 18時) (レス) id: 16cbe631bd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - すみた先生さん» ネタバレになるので嫌だ、という方がいるかもしれませんので誰オチかは答えられません。ですが一つだけ言っておきますと、自分の作品読んで来た方はわかります。大正解、同じパターンです(笑)。 (2021年1月9日 20時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
すみた先生(プロフ) - 大っっっ好きです!!(唐突)言葉選びといい情景描写といい最高です!個人的に気になっているのですが、この作品で誰オチとかはありますか?できる範囲でいいので教えたいただきたいです! (2021年1月9日 20時) (レス) id: 16cbe631bd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - 紗夜菜さん» ハイハイもう此処でこうなるんだろ?わかってんだよという展開を覆したい性癖の作者です、どうも(笑)。剣士にとって良かったかはわからないですが、周りの人間とのタイミング的には最悪だったと思いますよ。冨岡とか特に。 (2021年1月8日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/  
作成日時:2020年12月20日 17時

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