196 『槌よ鳴れよ』 ページ20
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Aにとって今、世界で一番信頼できる人物は誰か。
信頼できて、信用できて、何もかもを話せる人物。
鬼殺隊の柱にこう問えば、大概は『お館様だ』と答える。
だが彼女は柱ではないし、実際彼に逢ってみても、そうは思えなかった。
だから、何もかも、本当に何もかもを失った彼女が信頼できるのは。
──刀を造り、刀を愛す、槌に想いを乗せ続ける。
──刀鍛冶。
+ +
「──っていうことがあった」
「はン」
「ぶち殺すぞ」
隠に背負われ続けて何時間、ようやく到着した刀鍛冶の里で、Aとほぼ同程度の身長を持つあぐらをかいた黒髪の男。囲炉裏を挟んで向き合った精悍な顔立ちは、今は嘲笑うような笑みへと変貌していた。
普段ならアルカイックスマイルで正論を並べる処だが、Aの置かれている状況にそれすらままならないほどらしい。Aの右腕が逆らえない力によって刀に吸い寄せられていくのを理性をかき集めて阻止。
鋼鐵塚鋳蔵はAの味方ではない。また彼女の人間性も
もしも二人に友達同士なのか、と訊ねれば、すぐさま顔を顰められて「絶対に違う」と断言される。では何だ、と問えば、きっと少し恥ずかしげに──それか一切の屈託なしに。
『仲間』だと、二人は断じるだろう。
「──で、返事はどうすんだ」
「……あ?」
「あ、って何だ。返事だよ返事。そいつらから告白されて、『好きだ』って言われて、お前はどちらを選ぶ? どうせ何も言ってねえんだろ。風柱か、水柱か──どっちもこっぴどく振ってやりゃァ見物だがな」
息が詰まった。肺の中の空気が固形化されてしまい、吐き出すのにひどい労力を要する。──わかっていない訳ではなかったが、それでもそう言葉にされると。
そんな風に語彙を失くしたAを見て、鋳蔵は何故か素っ頓狂な顔をした。彼が長らく曝すことのない、珍しい顔である。
「何だよ」
「いや──さっきはああ言ったが、そんな、悩むことかと思ってな。てっきり振っちまうと思ってた」
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白夜の世界(プロフ) - すみた先生さん» そうですね!いや正にその通り!(笑)剣士は他の鬼殺隊員を嫌っていましたが、あれは同族嫌悪というのも多少入っていたんですね。本人に自覚はないですが。過去を経て人間は変わるのに、今の剣士(?)は記憶がないですから。理解しようもないって話です。 (2021年1月14日 18時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
すみた先生(プロフ) - 白夜の世界さん» 答えていただいてありがとうございます!話が変わりますが、記憶を失った主人公が過去の自分を嫌ってるのって、周りと同じ一般的な感覚を持ったからなんだろうなぁ。とか、周りから見た主人公ってこうだったのかなぁとか勝手に思ってます。更新お疲れ様です! (2021年1月14日 18時) (レス) id: 16cbe631bd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - すみた先生さん» ネタバレになるので嫌だ、という方がいるかもしれませんので誰オチかは答えられません。ですが一つだけ言っておきますと、自分の作品読んで来た方はわかります。大正解、同じパターンです(笑)。 (2021年1月9日 20時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
すみた先生(プロフ) - 大っっっ好きです!!(唐突)言葉選びといい情景描写といい最高です!個人的に気になっているのですが、この作品で誰オチとかはありますか?できる範囲でいいので教えたいただきたいです! (2021年1月9日 20時) (レス) id: 16cbe631bd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - 紗夜菜さん» ハイハイもう此処でこうなるんだろ?わかってんだよという展開を覆したい性癖の作者です、どうも(笑)。剣士にとって良かったかはわからないですが、周りの人間とのタイミング的には最悪だったと思いますよ。冨岡とか特に。 (2021年1月8日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2020年12月20日 17時