178 『下らぬ情景を』 ページ2
前作のIFルートはこちらに補足を載せてあります〜〜! 是非読んで下さい、長いですが。(笑)
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お札を懐から取り出しカウンターの上に出すと、宿屋の主人はそれを「多過ぎるよ」と言って窘めた。Aは僅かに顔を顰め、わりぃと謝る。
「今回は何日?」
「……わかんね」
「家を買った方が良いんじゃないかい」
余計なお世話だと吐き捨て、余った銭を巾着に入れ直した。黒い隊服の裾が話すことはないとでも表すように翻るのを見て、主人は肩を竦めた。
「難儀だねえ」
+ +
あのまま藤の家紋の屋敷にいるのは、さしものAでも躊躇った。故に浅草のいつも利用している宿屋にて泊まることにしたのだ。
安い割に真っ当な部屋を用意してくれているので、東京にいて藤の家紋の屋敷にて泊まれない諸事情がある場合には此処を使わせてもらっている。位置的には大通りから少し離れた怪しげな場所だが、かなりの穴場である。利用客は少ない。
ただ今日は外れのようだ。隣から男と女の喘ぎ声が聞こえる。
舌打ちが一つ鳴り、昼間から盛ってんじゃねぇよと思いつつ着流しに着替えて部屋を出る。日輪刀は背中に携えて、だ。盗まれたら堪ったものではない。
+ +
しばらくふらふらと路地裏を歩きまわった。夜になれば此処も随分と色気の漂う場所になるが、曇りといえども昼間からはそんなことはない。時折浮浪者が目に入る。すり抜けるようにして大通りに向かう。
喧噪はいつものことだった。商品を値切っているのだろう男の声が聞こえた。人波が押し寄せるのに逆らわないようにしていると、いつの間にか雷門の近くまで来ていた。風神、雷神が此方を睨むようにして見ている。
やましいことは何もない。けれど少し目を伏せてしまったのも事実だ。
頭一つ分抜き出たAのことを、時折誰かが蔑むような目で見る。この時代、女は慎ましやかな体躯が望まれていた。男の平均身長を優に五センチは超える彼女が受け入れられないのも無理はない。
「……うどん食うか」
摩耗した精神、という訳ではないだろうが、Aは半ば無意識にそう言っていた。
口に出したら、もはや蕎麦以外に食べる気がしなくなってきた。くぅ、と今更のように鳴ったお腹を撫でる。何を食べよう。
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白夜の世界(プロフ) - すみた先生さん» そうですね!いや正にその通り!(笑)剣士は他の鬼殺隊員を嫌っていましたが、あれは同族嫌悪というのも多少入っていたんですね。本人に自覚はないですが。過去を経て人間は変わるのに、今の剣士(?)は記憶がないですから。理解しようもないって話です。 (2021年1月14日 18時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
すみた先生(プロフ) - 白夜の世界さん» 答えていただいてありがとうございます!話が変わりますが、記憶を失った主人公が過去の自分を嫌ってるのって、周りと同じ一般的な感覚を持ったからなんだろうなぁ。とか、周りから見た主人公ってこうだったのかなぁとか勝手に思ってます。更新お疲れ様です! (2021年1月14日 18時) (レス) id: 16cbe631bd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - すみた先生さん» ネタバレになるので嫌だ、という方がいるかもしれませんので誰オチかは答えられません。ですが一つだけ言っておきますと、自分の作品読んで来た方はわかります。大正解、同じパターンです(笑)。 (2021年1月9日 20時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
すみた先生(プロフ) - 大っっっ好きです!!(唐突)言葉選びといい情景描写といい最高です!個人的に気になっているのですが、この作品で誰オチとかはありますか?できる範囲でいいので教えたいただきたいです! (2021年1月9日 20時) (レス) id: 16cbe631bd (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - 紗夜菜さん» ハイハイもう此処でこうなるんだろ?わかってんだよという展開を覆したい性癖の作者です、どうも(笑)。剣士にとって良かったかはわからないですが、周りの人間とのタイミング的には最悪だったと思いますよ。冨岡とか特に。 (2021年1月8日 21時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2020年12月20日 17時