【呪術廻戦】 待て、を飲み込んだ。【○○しないと出られない部屋】 弐巻

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　真人がふぅっと息を吹きかけるのを、私は顰めっ面で耐える。コイツが嫌いだとかは抜きにして──いや、抜きにする必要なんて全くないな。全くないが、たぶん誰にやられてもこんな感じの顔になると思う。

　唇を耳にくっ付けたまま、ふう、と吐息が耳の奥に潜り込む。ぞわぁぁっ、と一気に全身の産毛が逆立った感覚がした。押し込まれる熱い息で、火事場の馬鹿力並みに力の入った手が真人の肩を掴む。



「声出して」

「……っ、あ？ こえ？」

「俺、Aの可愛い声聞きたい」



　数センチの間を保ってニッコリ笑う真人に、喘ぎ声のことかよと納得する。納得したからといってコイツの言う通りにするワケではない。だいたい可愛い声ってなんだよ、こっちにとっちゃただただ恥ずかしいだけじゃねぇか。

　死んでも嫌だということを示すために、真人の肩に置いておいた手で自分の口を塞ぐ。真人が「なにそれ、」と急降下した機嫌のままに呟いた。もうす〜〜ぐ気に入らないことは怒るんだからなあコイツ。でもコイツをすぐ煽る私もたぶん同じくらい精神レベル低いんだろうな……。



「なんなの。手ぇ外してよ」

「ヤだよ。なんでも自分の思い通りになると思ってんなよ、バケモノ」

「うるさい、言う通りにしろよ」



　顔を歪めた真人は右手を鉄に変形させる。真人が自分の身体を変形させられることは覚えていたが、人型という特徴のせいで完全に失念していた。ガシャン、と頭の上に両手が固定される。ああ、コイツ無機物にも変えられるんだっけ。

　真人が私の耳に顔を近付けたかと思うと、──とんでもない痛みが耳に突き刺さる。思ってもいなかった痛みに詰まるような悲鳴をあげた。いや、とんでも、なくはない。これくらいはよくある、が、唐突すぎる──なんだ今の。


　驚きでバクバクと心臓を鳴らす私の真上、真人が犬歯についた血を舌で拭う。




「……噛、んだ？」

「うん。噛んだ」




　割とこういう処は素直なんだよなあ、と耳に残るじくじくとした痛みを我慢しながら思う。血が溢れているのか、じゅるり、と先程よりもよほど鮮明に水音が聞こえた。傷口を舌先で突かれると、痛みと何かがないまぜになった妙な感覚に襲われる。じんじんとした熱が異様に昂っていた。



「オマエは……、」

「うん？」



　先程の不機嫌さがとうに消し去った満足そうな顔で、真人は訊き返す。オマエは怖いよな、と言おうとしたけれど、そんなこと呪霊に言うことではなかった。

　なんでもない、耳に触れながら返す──硝子さんに治してもらわねぇと。


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耳を責めろ　「伏黒甚爾」→←真人　「耳を責めろ」

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