【呪術廻戦】 待て、を飲み込んだ。【○○しないと出られない部屋】 弐巻

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　落ち着きました、と顔を覆う私に「何処が？」と笑った彼だが、少なくとも覚悟ができたことは伝わったらしく再度肩口に顔を寄せてくる。

　一房垂らされた前髪がぱらりと肩に落ちた。──ふ、と耳に息を吹きかけられて、全身に力が籠る。



「待ッ……、いや、待たなくて、い、」

「わかってる」



　反射的に開いた口から出た制止の言葉を、理性で撤回する。耳元の空気の振動が普段の数倍大きく感じる。そりゃあこんな近くで喋っているんだから当然のことだろうが、目の前で誰かに怒鳴られても此処まで反応しないだろうと思った。

　は、と高校生にしては異常に艶めかしい吐息に全身の産毛が粟立つ。ぎり、と夏油の体に爪を食い込ませてしまったが、正直そんなことを謝罪する余裕もない。耳たぶを柔く食まれ、全く経験したことのない刺激に「ひ」と息を吸い込んだ。


　うわうわうわ。えぐいヤバい、完全に脳内がバグっている。え、なに、なんだこれどうすれば良いんだ。足……、足めっちゃ震える、絶対ヤバいこれ以上やられたら腰抜ける。ウッワ舐められた！ 舐められた！？ ウワァ──ッ！！




「まってまってほんとやだやだやだやだ死ぬ！！」

「死なない死なない」

「なんで二回繰り返すんだよ！？」




　語彙力が完全に幼児以下になっていた。夏油は笑ったが、せめて顔を遠ざけてから笑えと思った。そこでやられても私が困るだけだ。いや困ってるのを楽しんでるのかコイツ。ていうか手に力籠めすぎて痛い。

　それに気付いたのか、「ごめん」と言いながら(そして口元をニヤつかせながら)夏油は離れる。やべえ今の私ほとんど空気椅子状態。ほとんど夏油と壁に全体重をかけている──、何故だか申し訳なさは浮かんでこなかった。



「ほら、じゃあ、口開けて」

「えっ」



　夏油が舌を出したのに釣られ、反射的に同じように舌を出した。イヤ前の人がんべってしたら普通しちゃわない？ するよね普通。見事につられたワケなんですけれども。

　不意打ちで重ねられた唇に今度こそ腰が砕けた。おっと、だなんて言いながら夏油が私の腰を支え、上から覆い被さるように口付けされる。唾液ごとじゅるりと舌を啜られて身体が不随意に跳ねた。もはや足の力は完全に抜けきっている。この人よく私の体支えられんなと感心した(してる場合じゃねえ)。



「あれ、ホントに腰抜けてたの？」

「演技だと思うか？？」

「そりゃそうか」



　ドアが開いた後、夏油はさも悪戯っ子のように笑った。よく笑うヤツだ。得体は知れないけれど。


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