#25 太宰治の告白、弐 ページ26
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──一瞬にしてAの顔が朱に染まった。はぇ、へ、というような訳の分からない単語が唇から飛び出て、それにあたふたとする。
それから太宰が今掴んでいる自分の腕を見た。それから太宰の目を見た。包帯によって隠れていた片目は、熱を持った感情とやるせないような切なさが、さながらカフェオレのように混じり合っていた。そのまま見つめられていたら溶けてしまうんではないかと錯覚してしまう。
ほ、……本当ですか、とAが云った。狼狽した声に、太宰はしっかりと頷いた。
思わず彼女が後退る。太宰もまた一歩距離を縮めた。
『な……、なな、何で。何で太宰さんが、え、あのコレ揶揄って』
「違う」
そのはっきりとした否定に、Aは怯えたように後退った。今度は太宰も距離を縮めなかった。
「月が綺麗だ、アイラヴユー、愛している。何でも君の為だったら云えるぐらいには好きだ」
『はっ……はぃ? いや、あの、え、』
「Aちゃんが好き」
立て続けに人生で一度も云われたことのないような云葉を云われて、更に最後には名前付きの告白。何だこれは。一体今何が起こっているんだ、宇宙人でも襲撃したのか。いや宇宙人が襲撃したのは確実に太宰さんの頭だ、いや待て自分何を、ああ頭がこんがらがって来た。
ほぼオーバーヒート状態の彼女だったが、太宰は返事を急かすことはしなかった。
その代わりに「だからっ」と云う。
「何処にも、行かないでよ」
Aの呼吸が止まった。
太宰は目を伏せて、彼女のことを直視しようとはしなかった。できなかった。頼むから頷いてほしかった、嘘でも何でも良いから。とにかく肯定して欲しかった。そうしたら自分は。そうしてくれたら。
──私は。
……彼女は笑って、太宰の手を掴んだ。
『大丈夫です。何処にも行きませんよ』
全身に無意識に入れていた力が脱力するのが感じられた。思わず崩れ落ちそうになった体を彼女が支える。全身で彼女の体温を味わった。自分と同じくらい速いリズムで律動する鼓動を抱き締める。
そうして彼女は、太宰に一番最初の嘘を吐いた。
Aは翌日、マフィアから抜けた。
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わざと太宰さんの台詞アイラヴユーにしたこの感情を分かってくれ。太宰さんの場合発音が良いから英語の方が良いかもしれないけど、これわざとカタカナにしたんだ……、判ってくれ頼む……!!
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ゔい(プロフ) - 今更ごめんなさい。はじめまして。初コメです。面白すぎて一気読みしてしまいました。主人公も終わり方も天才的です。本当にありがとうごさまいます。ありがとうございます…… (2022年11月25日 18時) (レス) @page43 id: 4eb6cf0149 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - over the rainさん» 毎日読んでくれましたか!!先に全部書き終えておいて一日更新にしておいた甲斐がありました……!本編はそうはいかないので三日毎更新ですが、これからも上手く書けるように頑張りたいと思います。 (2020年7月8日 15時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
over the rain - Beast完結(?)おめでとうございます!毎日楽しみに読んでいました!本編も応援してます! (2020年7月8日 6時) (レス) id: a4bab14be1 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - 桜ノ呼吸の使い手さん» コメントありがとう御座います、はい完結致しましたァ〜〜!!面白く飽きのこないような作品を作っていきたいと思っているので、本編の方も頑張っていきたいと思っています。 (2020年7月7日 20時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
桜ノ呼吸の使い手 - え!?こんなに面白い作品が書けるんですか!?初コメですが完結おめでとうございます! (2020年7月7日 20時) (レス) id: e5b2323101 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2020年6月6日 17時