#24 太宰治の告白、壱 ページ25
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太宰治がある日拾ったのは、暁Aという名の少女だった。見た処、17か18ぐらいの青年だ。面白そうな人物であったし、それに彼女は何故だか、自分の退屈を紛らわせてくれるのではないかと思ったからだ。
ただの勘だった。けれどその勘は見事に当たっていた。
──あぁ、好きだなあ。
そう考えるようになったのはいつからだろうか。彼女の笑顔に心奪われたのはいつからだろうか。最初からだった気もするし、つい最近のような気もする。
正直に云って、この頃の太宰はそんな色恋に現を抜かして良い時ではなかった。計画の第一段階──つまり芥川龍之介か中島敦をマフィアに引き入れるのをどうするか──をそろそろ行う頃であったし、何やかやあってとにかく大変な時期だったのだ。
更にミミックも来襲する頃というクソみたいなオプション付きだった。
彼女の笑顔がたまに強張り始めたのは、芥川に代わって敦を引き入れた頃からだった。理由は判らないが、溜め息を吐くことが多くなったように太宰は思う。
そして──ミミックを退け、それからおよそ一ヶ月ほど経ったある日。
『太宰さん。私のこと、拾ってくれてありがとう御座います』
いきなり何を云い出すのかと思った。太宰の疑問には答えないとでも云うように、彼女は笑っていた。
その笑顔を見て、太宰は無性に不安になった。彼女が遠くへと行ってしまう気がした。思わずその手を掴めば、彼女は不思議そうに此方を見上げる。その瞳に映った己はひどく嫌な汗を掻いていた。何処かに行く気、と太宰が訊ねた。
Aが吃驚したような表情になった。それが当たっているが故のものか、はたまた何故彼が唐突にそんなことを云い出したのかという驚き故のものなのか、太宰には判別がつかなかった。
だから云った。
「君が好きなんだ」
彼女はぽかんと口を開けた。澱みない瞳が丸みを帯びる。そして ゆっくりとその目が瞬かれる。自分の今いる現状を把握できていないようだった。
だからもう一度云った。
「君が、好きだ」
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ゔい(プロフ) - 今更ごめんなさい。はじめまして。初コメです。面白すぎて一気読みしてしまいました。主人公も終わり方も天才的です。本当にありがとうごさまいます。ありがとうございます…… (2022年11月25日 18時) (レス) @page43 id: 4eb6cf0149 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - over the rainさん» 毎日読んでくれましたか!!先に全部書き終えておいて一日更新にしておいた甲斐がありました……!本編はそうはいかないので三日毎更新ですが、これからも上手く書けるように頑張りたいと思います。 (2020年7月8日 15時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
over the rain - Beast完結(?)おめでとうございます!毎日楽しみに読んでいました!本編も応援してます! (2020年7月8日 6時) (レス) id: a4bab14be1 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - 桜ノ呼吸の使い手さん» コメントありがとう御座います、はい完結致しましたァ〜〜!!面白く飽きのこないような作品を作っていきたいと思っているので、本編の方も頑張っていきたいと思っています。 (2020年7月7日 20時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
桜ノ呼吸の使い手 - え!?こんなに面白い作品が書けるんですか!?初コメですが完結おめでとうございます! (2020年7月7日 20時) (レス) id: e5b2323101 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2020年6月6日 17時