#19 byとある文豪 ページ20
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給湯室にて茶を飲み終わって廊下に出ると、曲がり角でぶち当たった国木田さんに「芥川が目覚めた。というかお前何してるんだ」と早々に罵倒された。待って、別に少女漫画的展開を目指していた訳じゃないけどその対応は泣くんですが。
スパコォン、と良い音を鳴らした私の頭。私の身長が伸びねえの絶対国木田さんのせいだと思う。あと与謝野女医。何であんたらは毎回私の頭叩くんですか。
「説明をするから早く──は? 何してるんだお前」
『ちょっと出掛けてきます』
「は?」
ぽかんと口を開けて唖然とする国木田さんの目の前で私はひらひらと片手を振った。正気に戻った彼に逃がすものかと捕まえられそうになったが、ギリギリの処でそれを避けて全力で扉へと向かう。
「バカ待て」という怒鳴り声を後ろに、私は探偵社を飛び出した。うへっへーい特に行くあてねえけど会議とかマジで面倒なんで逃げます!
そんな決意を胸に、私はまだ昼間の青さが残る横浜の喧噪を駆け抜けて行った。風がそれを後押しするように、私の背中を柔らかく押していた。
『さて特にすることもねえんで』
そう呟きながら、私はふらふらと道を歩いていた。特に行くあてもないことは先程述べたと思うが、かといって行く場所がないという訳ではない。
別に目的があるという訳じゃないけれど。
大して高くもない橋の上に、私は立っていた。
此処から見ると、随分と遠くにあるように思える──けれどふらりと手を伸ばしても、それが届かないのは道理だった。
手を伸ばすのは諦めて、手を翳してみる。太陽は既に傾き始めていたが、未だかなりの明るさを放っていた。それが眩しかった。多分、私にはどう足掻いても届かないものだと思うから。
私は、闇に生きる者じゃなかった。闇では光が足りなさ過ぎた。だから途中で抜け出した。
私は、光に生きる者じゃなかった。光では眩し過ぎて眩んでしまった。その熱量に耐えることはできたけれど、とてもずっといられるような場所ではなかった。
『弱虫は、幸福すらを恐れる』
誰の言葉だったか。学校の教科書で読んだのだろうか。
だけど、嗚呼きっと。きっとそうだろう。
『きっとこの人は幸せなんだろうなあ』
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ゔい(プロフ) - 今更ごめんなさい。はじめまして。初コメです。面白すぎて一気読みしてしまいました。主人公も終わり方も天才的です。本当にありがとうごさまいます。ありがとうございます…… (2022年11月25日 18時) (レス) @page43 id: 4eb6cf0149 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - over the rainさん» 毎日読んでくれましたか!!先に全部書き終えておいて一日更新にしておいた甲斐がありました……!本編はそうはいかないので三日毎更新ですが、これからも上手く書けるように頑張りたいと思います。 (2020年7月8日 15時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
over the rain - Beast完結(?)おめでとうございます!毎日楽しみに読んでいました!本編も応援してます! (2020年7月8日 6時) (レス) id: a4bab14be1 (このIDを非表示/違反報告)
白夜の世界(プロフ) - 桜ノ呼吸の使い手さん» コメントありがとう御座います、はい完結致しましたァ〜〜!!面白く飽きのこないような作品を作っていきたいと思っているので、本編の方も頑張っていきたいと思っています。 (2020年7月7日 20時) (レス) id: ad65672360 (このIDを非表示/違反報告)
桜ノ呼吸の使い手 - え!?こんなに面白い作品が書けるんですか!?初コメですが完結おめでとうございます! (2020年7月7日 20時) (レス) id: e5b2323101 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白夜の世界 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/nisui03101/
作成日時:2020年6月6日 17時