許されてしまって、良いんだろうか。

11　『・』 ページ11

・


　此処でも俺の心の出るのは、やるせなさだった。まただ、まただよ。どうしてお前らは俺に相談しないんだよ。俺に何かを言ってくれたら、俺だって、何とかできたかもしんねえだろ。

　そりゃ俺、大して頭が良い訳じゃなかったよ。バカ騒ぎとかたくさんしてたし、勉強得意って訳じゃなかったから。でも俺悩むことぐらいできんだよ。お前らに気遣ってもらうんじゃなくて、俺がお前らを気遣ってやりたいんだよ。


　──いや、要するに、そういうことなんだろう。志津も、河合も、そう思っていたからこんな行動をしてきたんだ。バカみてえだ。そんな話があったか。賢者の贈り物──ルイス・キャロル。いや、それは全然、違う話か。

「何で、言ってくれなかった」と言ってしまうことは避けられなかった。責めるような口調になってしまったのも、仕方なかった。


　河合はぽろぽろと水滴を溢れさせて、ごめんね、と言う。違うよ。謝ってほしい訳じゃなくて、ただ──相談して欲しかった。言って欲しかったんだ。



「────」



　河合の肩を掴む。河合は怯えたように体を跳ねさせ、ぎゅっと目を瞑った。はは、めちゃ可愛い。

　でも俺、お前を振るから。最後だけ。





　唇を、重ねる。





「────」



　河合は目を瞠った。瞑ってろ、ともう一度重ねた。河合は大人しくそれを受け入れ、俺の背中に手を回す。俺も後頭部に手を回して、そっと舌を忍ばせる。しょっぱい味がした。好きな女を泣かせた罰だ、と思った。


　しばらく、キスをして。




「河合」

「うん」

「俺のこと、好きだった？」

「今でも、好きだよ」

「そっか……」

「────」

「俺は」

「────」




「お前のこと、好きだったよ」




＋ ＋




　ダンッ、と力強くジョッキを机の上に置いた。店主が顔を顰めて「壊すんじゃないヨ」と言い、志津が「まあまあ」と苦笑いしながら俺の背中を叩いた。




「ああ〜〜〜めちゃめちゃ好きだったんだけどなあ〜〜〜」

「何、振られたの、コイツ？」

「違ぇよお〜〜〜〜俺から振ったんだよお〜〜〜〜〜」




「最悪ネ」と店主は言った。うるせえよ、俺だって別れたくなかったよ……、つか正直未練タラタラ過ぎて自分でも引いてる。あークソ、マジで、……ああ〜〜〜〜〜。

　何で振っちゃったかなあ、と言う俺に、店主は「そんなこと決まってるネ」と言う。どういうことだ、と俺は身を起こした。





「その女に、お前が釣り合わなかっただけヨ」





　──なるほど確かに、それも大人の見方かもしれなかった。


・

終わり ログインすれば
この作者の新作が読める(完全無料)

←10　『・』

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す