弐 ページ21
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千寿郎の部屋を出て、私はいつも杏寿郎が鍛錬をするのを眺めていた縁側に座り、空を見上げる。
今日の月は見事な満月で、私は心の中で遊郭に向かった小芭内の安否を祈りながら、手紙の封を開けた。
◇◇
よもや、
君のことだから、この場所には辿り着けないと踏んでいたが、まさか見つけられてしまうとは。
この店は俺と小芭内が初めて、君への贈り物を選んだ場所で、ちょうど店主と仲が良いこともあって、協力を頼んだ。
君は昔、腰程の長さの髪を容赦なく切り落とした。
家に対抗したいがため、そのような行動に出たのだと知った時は、もっと自分を大切にして欲しいと思ったが、そんな思い切りの良いところも好きだと思うなんて、どうやら俺は相当君に深く溺れているらしい。
そこで、この手紙には君の好きなところについて書いていこうと思う。
まず、先程から言っている通り、君の髪が好きだ。
艶のある君の髪は、光の当たり方によって緑髪に見える程美しく、少し風が吹くと君の頬を柔らかく撫でる光景は、まるで絵画のようだった。
次に、君の笑顔が好きだ。
俺を明るく照らす君の笑顔は、昔からずっと変わらない。その笑顔に、俺がどれ程救われたことか。
そして、君の声が好きだ。
凛とした君の声を聞くと、良く母上を思い出す。俺の名を呼ぶその声はとても愛おしく、心地よかった。
まだまだ沢山あるが便箋に入り切らなくなってしまうため、残りは君がこちらに来てから伝えようと思う。
最後に、君の全てが好きだ。
涼しい顔をして負けず嫌いな所も、聞き分けが良いと思えば、おかしな所で頑固なところも、料理が美味いところも、俺の家族を大切にしてくれるところも、全てが好きだ。
俺は君のように学もないから、滅茶苦茶な文章を書いていると思うが、これが全てであり、君が思う以上に、俺は君のことを好いている。
◇◇
「…杏寿郎、あなた本当に照れ屋ね」
こんなこと、生きている間はあまり言ってくれなかったじゃない。
あなたが私のことを大事にと思ってくれていることは十分理解していたつもりだったけど、あまりにも情熱的な手紙の内容に笑いを零す。
「…後、残り八つよ」
外が寒いせいか、余計孤独に感じてしまった。
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作者名:西川あや x他1人 | 作成日時:2020年10月28日 20時