【実況者】TRANS-PORTER【wrwrd!】 (ページ21)

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｢…カフェオレ飲んでないわ…｣

退社しようとして、カバンの中に詰め込んだ中に封を少しも開けていないカフェオレのボトル。退社前に飲んでしまおう。と、駐車場から車を出して、会社前の大通りの駐車スペースに止めた。会社前のベンチに腰掛けた。公園みたいな感じになっていて、少し街灯が灯り始めていた。

｢…んま…んまこれ…｣

ぬるくなったけど美味しい。甘くなく苦くなく。優しいコク。美味しい。これから買おう。
そう思ってふ、と視線を左に移すと、花壇が見えた。綺麗に手入れされていて水やりのあともあった。

｢…綺麗。｣

花壇の前でしゃがむ。さっき水やりしたばかりなのか、花弁に水滴が載っていた。すこしふぅ、と息を吹けば、雫が跳ね上がって飛んでいった。
中々いいもんだ、綺麗に丁寧に手入れされている花壇なんてあまり見たことは無い。

｢…何してるの？｣

｢ふぁっ！？｣

｢おっと｣

突然声をかけられて、ビックリしてバランスを崩す。尻餅をつく前に誰かに背中を支えられた。ふ、とその正体を見ると、口元のマスクに赤い×印が付いた男の人。えっとこの人は。

｢ビビりさんですね。ありがとうございます。｣

｢ひとらんらんだよ。みんなはひとらん、とからんらん、って呼んでる。｣

｢あれ、ヒラの教えてくれた名前と全部違う…ひとらんさん、ありがとうございます。｣

｢さん、いいよ。ひとらんで。｣

｢…ひとらん。｣

｢ん、それでいい。｣

そういう彼は目元で優しく笑った。彼の手にはじょうろが。きっとこの花壇の手入れをしているのは彼なのだろう。

｢…シノダさん、花、好きなの？｣

｢…いえ、嫌いではないのですが…あまり見かけなかったので…でもこの花は好きです。見ていて癒されます。｣

｢そっか、ありがとう。｣

突然私の携帯が振動した。慌てて腕時計を見る。ここからMJの店まで30分かかるのだが、既に6時半を回っていた。ひっ、お怒りだ。

｢ま、またお話聞かせてください！！お疲れ様でした！！｣

｢あ、うん、バイバイ。｣

｢頑張って手入れ、してください！！｣

そう言って車に走って戻る。パスワードを入力してエンジンをかける。左ハンドルなので、窓を開けて頭を下げた。すると彼はまた手を振ってくれた。
…なんだ、優しい人ばかりじゃないか。戦略課のメンバーの方がより血気盛んらしいが…第一印象があれだが、関わりは作らないとな、なんてったって顧客だもん。

｢…あの車…！！｣

私が走り去った後に放たれたひとらんの呟きはは、エンジン音によって掻き消された。