ep.6 宝箱 ページ6
「姫様！！どこに行ってたんですか！！」
『ちょっと…』
「王様がお呼びです！もうお怒りですよ！！」
父親の側近であるセバスチャンが、Aが帰ってくるや否や説教をはじめる。
気が重いが、仕方なく父親であるトリトン王の元まで泳いでいく。
「A…お前は一晩中どこにいたんだ」
『それは…ちょっと……』
「また海の上へ行っていたのだろ」
『っ！知っていたの！？』
父を見れば顔を顰め、凄まじい怒りが伝わってくる。
隣にいるセバスチャンを見れば顔を逸らしたので、恐らく後をつけさせていたのだろう。
流石はこの海を統べる王様、Aは何も言えなくなった。
「今までは多少の我儘は許してきたつもりだ。だがな、今度という今度は許さん！！人間を助けたなど、あってはならん事だ！！」
そう言ってトリトンは背後からある物を取り出した。
『っ！どうしてそれを！！？』
トリトンが持っていたのは、Aの大切にしていた宝物箱だった。
「こんな物を集めているから、幻想を抱くんだッ!!!!!」
そして、トリトンは海の王だけが持てる矛で箱を貫いた。
『やめてーーっ！』
箱を突き破った瞬間、雷が落ちたように粉々に砕け散る。
パラパラパラッ……
水の中に浮かぶ、粉々になった宝物の破片たちをAは涙を流しながら集めた。
「……二度と、海の上に出ることは許さん」
その姿に心を痛めるトリトンであったが、こうする他無かったと言い残し、その場を去った。
『酷い…酷すぎるわ、お父様……』
その様子を遠くから見つめていた姉達も、声をかけることは出来なかった。
Aは粉々になった破片を一つだけ手に握りしめ、城から出て行った。
・・・
『うっ……酷いわ、お父様……ｸﾞｽｯ』
涙はいくら流しても止まらない。
ふと、どこまで泳いできたのか気になり泳ぎを止める。
『ここは……』
Aはとある言い伝えを思い出した。
光が全く届かない海の底の、さらに奥深くに、海の魔女が住んでいるという言い伝えだ。
そのお話は、人魚に悪い事をしてはいけないよ、悪い事をしたら魔女に食べられちゃうぞ、という教訓を与える物語なのだが、Aがいる場所はそこに出てくる魔女の住処と酷似していた。
吸い込まれるようにAは、奥深い海の底へと進んだ。
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作者名：yoku | 作成日時：2023年6月5日 10時
