fuse ページ8
とうとう退院できることになって、今までお世話になった医師や看護師等にお礼を告げてから、受付で手続きを済ます。
久々の外に少し胸を高鳴らせながら病院の自動ドアを抜けた先には、清々しい青空———ではなく、眩暈がするようなピンク色が待ち受けていた。
「……何でいるんですか」
「そりゃあ退院の迎えに来たに決まってんだろ」
「……頼んでませんけど?」
……つい先日にも似たようなやり取りをしたような気がするのは置いといて。
何で退院の日程知ってるんだ。
看護師が教えたのかな……許さん。
「一人で帰れるので」
「家の場所わかんの?」
「住所なら教えてもらいました。心配いりません」
「チッ……あっそ」
小さな声で何かぼやきながら、三途さんは壁に寄りかかって腕を組みながら、物色するようにこちらをジロジロと見やっている。
……本当にこの人恋人だったんだよね?
見た目もだけど、何でこんなヤバい男と付き合ってたんだろうか前の私は。
いや逆に記憶喪失になったことによって冷静になれたのでは。
感謝しなさい前の私。
貴方はきっと騙されてたんですよ。
こんなやつ結婚詐欺師に決まってる。
寧ろ結婚詐欺師じゃないとおかしい。
「なんか面倒くさいので先に言っときますけど、別れてください」
「なっ……」
「私は新たな人生を始めたいので」
「……いいぜ」
お、案外あっさり受け入れてもらえたな。
結婚詐欺師なんだからもっと粘ると思ってたけど。
まあ確かに今までせっかく培ってきた愛情がなくなったターゲットなんかいらないよな。
「まあ、俺から離れられたらの話だけどな?」
「自惚れるのも大概にしといて下さいね」
こいつ……めんどくせぇ……。
とでも言いたかったが、流石に言えるわけもなく。
早々に胃痛がしてきそうな予感を覚えながらも、私は渋々承認するしかなかった。
「恋人的な距離感はやめてくださいね。通報します」
「しゃーねぇな」
「それでは失礼します」
会釈だけして、足早に彼の前を立ち去ろうとしたのだが———腕を掴まれて、思わずゾッとした。
「離してっ! 結婚詐欺師野郎‼︎」
「誰が結婚詐欺師だこの野郎‼︎」
直ぐに腕は離されたけど、前の私の記憶なのだろうか。彼のその手の感覚には、どこか覚えがあった。
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ぱーぷる姫(プロフ) - こういうの普段は読まないですけど、タイトルに惹かれました。読んで正解でした。鳥肌です。ありがとうございました (9月30日 18時) (レス) @page43 id: 4d7ac923b9 (このIDを非表示/違反報告)
いちご丸 - 闇深いけど好きです笑 (9月2日 0時) (レス) @page44 id: 7e45dba670 (このIDを非表示/違反報告)
海 - やばい、ちょー好き、ストーカー系好きなんですよね笑 (6月4日 9時) (レス) @page45 id: 465dec3a48 (このIDを非表示/違反報告)
華夜(プロフ) - 衝撃展開...... (2023年3月28日 11時) (レス) @page34 id: e1dc7047a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梅累 | 作成日時:2023年1月9日 11時