イタクを鬼纏う ページ38
「お前の畏を魅せてくれ!!」
「おことわりします」
目に涙を滲ませながらもはっきりと否定した雪女に、一瞬固まる一同。
「おい…つらら」
「はっ、ごめんなさい」
一瞬我に返った雪女だったがそのショックは大きかったのか、今はムリと叫んで離脱した。
雪女の勘違いから生じた悲しみを予想できるわけもない淡島は、そんなにも体力を使うのかとこちらも勘違いが生じていた。
「おまえら」
そんなリクオ達の元に土蜘蛛の拳が迫る。
「レラ・マキリ!!」
迫ってくる土蜘蛛の拳を弾き返すイタクに、慌てて刀を構えるリクオ。
「ぼーっとしてんじゃねぇ。で?どーすんだ?」
「……イタクはやっぱすけぇなぁ」
イタクを見つめるリクオの口元に笑みが浮かぶ。
やはり、彼は強い。
「お前が欲しい、イタク」
「…あ?」
「てめぇの畏、オレに鬼纏わしちゃくれねぇか」
イタクはイライラしたように言葉を返すと鎌を握り構える。
「リクオ……どんな業か知らねぇが…オレは誰の風下にも立たねぇよ」
遠野を出発する時も、京都へ向かう船の上でも、誰にも屈しないと強く言っていたイタク。
盃を交わしたわけでもない。
遠野妖怪の誇りについても以前聞いた。
それでも、いやだからこそリクオはイタクが欲しかった。
「第一おめぇに畏を託すなんて危なっかしくてできるかよ!!」
イタクは、リクオの教育係なのだから。
否定の意を示すイタクの背後に回ると、その首に刀を突きつける。
「…リクオ、何のつもりだ」
「オレもちったぁやるようになったろ?オレの刃になれイタク」
真正面から睨み合う二人。
そんな二人の元に再び土蜘蛛が向かって来る。
それに気づいて二人とも土蜘蛛に向き直る。
「オレがそう、望んでいる」
イタクがキッと目を細めると、その姿は本来の彼の姿、イタチへと変わる。
イタクが畏を解き放ったのだろう。
「…フン、しくじったら殺す」
全く素直ではない。
しかし、表面上では何と言っていても、お互いに信頼し合っているのだろう。
イタクを鬼纏ったリクオの刀は、イタクのもののように大きな鎌へと変化してしていた。
そうして、イタクは理解する。
これは、遠野で散々注意した、畏を解いて敵に無防備に背中を向けているのではない。
こいつは、オレを背負っているのだと。
「いくぜ、土蜘蛛」
そう言って鎌を振り回すリクオに、その光景を見ていた鴆や淡島達は驚きを隠さずにいた。
そんなリクオを見て、土蜘蛛は再び四股を踏む。
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作者名:エッグタルト | 作成日時:2024年3月7日 1時