証に見惚れる ページ34
「ほう…おもしれぇ業だな」
「…土蜘蛛、これがてめぇに届く刃だ」
妖艶に微笑むリクオの表情に見惚れてしまう。
この人は、私の…お兄ちゃんなんだ……。ああ、カッコいい。
ずっと羨ましいと思ってきたけれど、これはもうそんな次元の話じゃない。
この人の隣には一生立てない。対等な立場では、決して。
「リクオ様…ちょ、ちょっと待って…今の…何ですかぁ？」
雪女は困惑を隠せずにそう問いかける。
そして、気づく。
「リ…リクオ様！？何ですその背中の！？そんなのありましたっけ！？」
はだけた着物の隙間から見えたのは、肩口から除いた肌に見える痕。
「あぁ…これは百鬼を率いる者が百鬼と共に闘った証だ」
「共に闘った証…？」
しかし、そこに見えるのは雪の紋様。
その上には鴆の証。
「リクオ様…それって…もしかして」
背中を向けるリクオに問いかける。
「あの、私…またお役にたったとそういうことでしょうか？」
振り返ったリクオと目が合う。
雪女の頬は依然として赤いまま。
「あたりめぇだ…またオレの背中についてきな」
ニッと笑うリクオの笑顔に、背中にある自分の紋様が目に入る。
それを確認した雪女の顔にも笑顔が浮かぶ。
「はっ…はい！！」
涙を浮かべながらも嬉しそうに笑う。
そんな彼女の笑顔を目にして、安心したように微笑むと、ドサっとその場に倒れ込むA。
「…なっ、おい！A！？」
焦ったようにしゃがむ鴆は、その額に手を当てて小さく舌打ちする。
興奮したように先程のリクオと雪女の攻撃を見ていたその表情は、鴆も初めてみるような高揚した顔。
楽しそうに、ワクワクと。
文字通り目を奪われていた。
起き上がることさえできないくせに、体を起こしてジッと見つめていた。
それはまるで初めておもちゃを買ってもらった子供のように、また初めて恋をしたばかりの人間のようにも見えた。
焦がれていたのだ、どうしようもなくただ目の前のことに。
そりゃ、倒れてしまっても仕方がない。
意識を失っても尚、その呼吸は荒々しい。
「…無茶しやがって」
けれど、こんな表情を見られて良かったとも思う。
生まれてきてから今まで、ずっと彼女のこんなにも楽しそうな顔は見たことがなかった。
「…鴆」
「A様！？」
慌てて駆け寄ろうとした二人を制止するかのようにジッと見据える。
Aの体のことなら自分が一番よくわかっている。
リクオは鴆の眼差しを受け黙って土蜘蛛に向き直った。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
