首無の怒り ページ14
京都の街を歩きながら、雪女を抱き抱えるリクオの姿と気を失い倒れ伏すAの姿を思い起こしていた。
自分が守ろうとしたものを守らず、いつまで"常州の弦殺師"という昔の名を名乗るのだと自分自身に問いかける。
双子の兄である二代目鯉伴が亡くなってからもう数年が過ぎた。
自分は何か大事なことを忘れてしまったのではないかと両手で顔を覆う。
目の前に妖怪に腕を掴まれる人間の女性の姿を発見してヒモを妖怪に巻き付ける。
「やめておけ。これが京妖怪の目的か？ゲスな奴らだ」
正義ヅラして、やめておくのは自分のほうだと心の中で嘲笑する。
勢いよく殴りつけられ首が地面に落ちる。
「空の妖怪どもが言ってたぜ。奴良組とは名ばかりの集団だとな〜」
奴良組だと気づかれバカにするような笑い声が向けられる。
その余りの言われように、泣けるどころか笑えてくると自嘲する。
「何笑ってんだてめぇ！！」
首無がこぼした笑みに激昂して激しく殴りつけてくる京妖怪。
側に佇み、一方的に殴りつけられる首無の姿に起きてと泣き叫ぶ女性。
どこかでよく聞いた覚えがあると想いを馳せる。
「ねぇ、起きてよ。早く起きて…義賊さん」
浮かんだ顔にハッと目を見開く。
次の瞬間、京妖怪達の体には首無のヒモが巻き付いていた。
「そうだ…簡単なことじゃないか。なぁんでずいぶん忘れてたんだろう」
…そうだ、殺せばいいんだ。
"オレ“は首無。
自分が守るというのはやっぱり不自然なのだと。
だってオレはー狩る側の妖怪。
"仕事"はー妖を殺してまわること。
鯉伴と出会った二百五十年前の常州のように。
「首無、あんた…これ…」
毛倡妓は血の跡だけが残る地面に立ち尽くす首無の姿を発見する。
「毛倡妓。ちょっと待ってろ。封印の京妖怪と…殺んでくるから」
茫然とした顔で首無を見つめる毛倡妓の方へ振り返った首無の表情には、冷たい笑顔が浮かべられていた。
第七の封印である柱離宮に到着したゆらと奴良組妖怪達は、ヒモによって柱に括り付けられた京妖怪達を発見する。
その地獄絵図とも呼べる程の惨状に思わず息を呑む。
「すさまじい怒りを感じるな。強力な妖どもをここまでにするとは…」
それはかつて最強の陰陽師と呼ばれた十三代目でさえもそう呟く程。
「……ムゥ…首無の仕業だ」
ヒモを手に眉を顰めてそう呟く黒田坊の言葉に驚くのは十三代目だけではなく、奴良組の妖怪もだ。
「奴め…怒りで自らを失ったか」
その顔には冷や汗が浮かぶ。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
