鴆の畏 ページ12
「牛鬼の言ってた『業』って何のことだろう？。妖怪にできることは『鬼發』と『鬼憑』だけかと思ってたんだけど」
夜も更けていく中、リクオの悩みは修行のことへと戻る。
「…うちの一族は代々てめーの親父についてってたからよ。出入りのたびに武勇伝を聞かされてた」
そんなリクオを見つめてポツリと話し始める鴆。
「「ワシら弱い妖怪でも"力になれた"。毒の翼を広げた…ってな。そいつは比喩でもなんでもねーのかもしれねぇ」
百鬼夜行の強さが自分に還ってくるという牛鬼の言葉を思い出す。
リクオは思う。
自分の畏が強くなれば、それは畏になるのだろうかと。
「リクオ、見ろ」
鴆の背中に広がる大きな翼に目を見開く。
「さわんなよ、キレイだろーが毒バネだ」
思わず見惚れるリクオにそう釘を刺す。
「こいつは鴆という妖怪の能力だ。オレの畏って言ってもいいかもしれねぇ。オレも翼を広げてぇ」
立ち上がり、座り込むリクオを見つめる鴆の顔は楽しそうに笑っていた。
「お前のために戦ってみてぇんだ。お、そうだ。今リクオの百鬼夜行はオレだけよ。だからオレがリクオの力になりゃーそれで、わけわからん牛鬼の言ってることは成立すんじゃねーの？」
「鴆くん…ありがとう」
心配して励ましてくれている。
それが力になる。
信じてくれる人がいるだけでこんなにも力になる。
思い浮かぶのは血を流しボロボロになりながらも、リクオの無事に安心し微笑んでくれた雪女の笑顔。
もし、それが百鬼夜行ならー
パアンと頬を叩く。
そうして、リクオは覚悟を決めるように拳を握りしめる。
そうだ、自分はみんなのためにも力を手に入れたいのだと。
夜が明け、昨夜壁を突き破って吹っ飛ばされたままに穴の空いた寺。
その前に座る牛鬼の前に辿り着いたリクオと、その後ろに立つ鴆。
「牛鬼、続きを…お願いします！」
「よし、はじめるぞ」
その頃弐條城では、羽衣狐と京妖怪達がその最深部に到着していた。
「こ…ここが……」
「羽衣狐様…」
「そう…ここでやや子を産む」
鍾乳洞と黒い池。
その中央に聳えるお札の貼られた柱。
「永かった。あと五日だ…」
羽衣狐は薄く笑うと池に向かって歩いて行きザプザプと池に浸かり、中央の柱に触れた。
黒い水に触れる狂骨を止める鏖地蔵。
その黒さは、封印で解き放たれた京の怨念が流れ込んだもの。
そう。
この場所は羽衣狐が最初にやや子を産んだという妖気、終焉の地。
鵺ヶ池ー"ぬえ"を産む池だ。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年3月7日 1時
