数年後 ページ9
双子は中学1年生となっていた。
母と挨拶を交わした後、リクオは、廊下の先で木魚達磨と話す祖父を見つけて駆け寄って行く。
「あ。おじいちゃん、また会議？ダメだよ！悪だくみばかりしてちゃ！ご近所に迷惑かけないよーに！」
「う…ム…」
言葉を詰まらせるぬらりひょんだったが、リクオは笑顔で家を出て行く。
「じゃ！学校行ってきます！」
項垂れるぬらりひょんに向かって木魚達磨も呆れた表情を浮かべながらその様子を見つめる。
「うーむ。むしろ『立派な人間』になってる気がしますなぁ…」
「おはよう、おじいちゃん、木魚達磨。またダメだったの…？お兄ちゃんに三代目を襲名させるの」
そう声をかけたのは双子の妹であるA。
先程までの会話と祖父の沈んだ様子から何となく予想はついていたが。
リクオは、昔のバスの事故の一件以来、一度も妖怪の姿に変化していない。
さらに、あの時の一件で一日のうちの四分の一しか妖怪の姿でいられないとわかってしまった。
そうなるとなかなか幹部の承認は得られないのだろう。
「いつまでワシが総大将でおりゃあいいんじゃ。早う隠居して楽にくらしたいんじゃがのう〜」
そう嘆く祖父の姿に苦笑するA。
祖父の気持ちもわからなくはない。
特に、A自身が奴良組を継ぐことはできないため、リクオの行動には少なからずやきもきさせられてしまうところがある。
しかしー。
Aはあの事故の後、聞いたのだ。
学校の自由研究発表の時に、清継やクラスメイト達から妖怪の存在を否定され、また悪く言われてしまったことも。そのことが原因で揉めてしまったことも。
そして、カナと話していたことも。
カナちゃんに言われたこと、必死に守ってるだけなんだもんね…。昔から、やっぱり…カナちゃんのこと、大事なのかな…。
浮かんだモヤモヤを振り払うように笑顔をつくると、二人に向かって笑いかける。
「じゃあ、私も学校に行って来るね。心配しなくても、そのうち何とかなると思うよ…お兄ちゃんなら」
その言葉に目を見開いたぬらりひょんは孫娘に述べる。
「Aからも何とか言ってやってくれんかのう」
Aは笑顔で首を横に振ると、少しだけ寂しそうに笑った。
「ごめんね…おじいちゃん」
そういってその場を後にする少女を見つめ、ぬらりひょんは小さく息をつく。
少女が気にしている程、誰も少女が人間であることなど気にしていないというのに。
優しい少女は自分のせいだと己を責め続ける。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年1月15日 0時
