牛鬼の住まう山 ページ34
巻がふと太い木の幹に刺さった何かと、深く抉れたようなその跡に気がつく。
「ん？何だこれ…」
「それは爪だよ。ここは妖怪の住まう山だ。もげた爪くらいで驚いちゃーこまる」
驚愕して叫ぶ島、巻、鳥居。
「山にまよいこんだ……」
「旅人をおそう妖怪…」
「名を"牛鬼"という」
それは、奴良組の一員でもある妖怪の名。
聞こえた名前にAは目を見開いた。
その頃ー
捩眼山頂上の牛鬼組の屋敷では、帰ってきた牛鬼に挨拶する一人の妖怪の姿。
「かわりないか午頭丸」
「牛鬼様。山に獲物が入りましたよ」
不敵な笑みを浮かべる午頭丸と何やら思案顔の牛鬼。
一方本家では
「もう一度言ってみろバカ息子ども。牛鬼だと」
「あくまで目撃情報だ。やったと決まったわけじゃねぇよ…浮世絵町のカラスどもが見てた」
カラス天狗の息子達が、父であるカラス天狗に命じられた裏切り者の調査についての情報を伝えているところだった。
考え込むカラス天狗の携帯電話が振動し、青田坊からの着信を知らせる。
「な、なんじゃとぉおお！？今…捩眼山に向かっておるじゃとおおお！？」
受けた報せにカラス天狗は絶叫した。
騒ぐ巻や鳥居達を尻目に、雪女は携帯電話で連絡を取ろうとするも表示されるのは圏外の文字。
「…ダメだ。通じないわ…どうしよう…」
牛鬼組ー奴良組の中でもそうとうな武闘派である妖怪達。
雪女はリクオが人間の姿であることを確認し、さらに"人間である"Aの姿を見つめる。
そして、二人を守る覚悟を決める。
巨大な爪を見て帰ろうと騒ぎ立てる巻や鳥居。
「そーだよ、鳥居さんと巻さんの言う通り今すぐみんな帰ったほうがいいよ」
それに賛同するリクオだったが、清継は山をおりる危険性とバスがないことを告げ別荘を示して引き止める。
ツメが作り物である可能性を提示する化原さんだが、残念ながらその可能性がないことをリクオとAはわかっていた。
清継は温泉や食事、そして何よりゆらがいるから安全だと告げてみんなを安心させようとする。
「あ、先生も一緒に…」
「いや、ワシはもう山を下りるよ。じゃまじゃろう。いやいや、ワシの役目は終わりだよ。そぉだ…夜は危ないから絶対に出ない方がいい」
Aはその言葉に少し怪訝そうな目を向ける。
何だろ…この感じ…。
先生の頭上に糸を使って操る者には誰一人気づく様子はない。
糸が切れた先生は、何故自分がこんな山奥にいるのかわからずに困惑しながら山を下りて行く。
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作者名：エッグタルト | 作成日時：2024年1月15日 0時
