全ては紙上、或いはあなたの中に。 ページ7
空が徐々に青みを失っていく時間帯。日差しが差し込む窓を背に、万年筆を手に文机へ向かうのは一人の言ノ葉連合メンバー──そして小説家でもある、尾崎康一。
「ねーえ」
そんな彼に、もう何回目かも分からぬ「ねえ」を若葉はかける。そして、先程まで正座していた足を崩し、ん、と眉を顰めながら痺れた足を揉んだ。
「ぼくは原稿で忙しいといっているだろう。邪魔しないでくれ」
振り向きもせず尾崎は返す。この返事ももう幾度言ったことか。
でも、と若葉は少し体を傾け、彼の身体の隙間から文机の上を覗いた。
「何も書いてないのに?」
彼女の言う通り、文机の上の原稿用紙には、彼の内心を映したような升を横断する線が幾重にも引かれるばかり。
彼は、紙の上に書く言葉も話す言葉も文字通り失い、声にもならぬ呻き声を上げながら頭を掻きむしった。そのままごん、と文机に突っ伏す。
「そうだよ! ぼくには才能がないんだ! 昨日まではあんなにすらすらと書けていたのに、構想だってたくさんあったのに! 一晩寝てしまったらこのザマさ、ぼくの作品自体ぼくには書かれたくないんだろうさ! ……ちくしょう……」
うわぁぁ、と一段高いトーンでの悲鳴。かと思いきや、次の瞬間には低い声でぶつぶつと、誰へ向けたとも知れぬ悪態をつき続ける。
そんな彼の様子に、若葉は全く動じず、何かする気配もない。
動いたかと思えば、少し足の痺れがとけてきたかららしい。横座りにしていた足を投げ出し、前に伸ばして、今度はふくらはぎの辺りのマッサージを始めた。
空が紫を帯びてゆき、眩しかった窓からの日差しも緩やかになった頃。若葉は尾崎の本棚から抜き出した本をぱらぱらと捲り、尾崎は完全に活動を停止していた。
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紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» なんですかねそれ尊すぎやしませんか?? そしてそれを桐箪笥さんが書いてくれる、と……(控えろ) (2020年1月1日 0時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - 紫清さん» なんだかその後に早朝、神社などに思った訪れて御籤を引いてみんなで甘酒でも呑むのかな…と想像してしまいました。ごめんなさい、つい…想像が止まらない… (2019年12月31日 23時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» グレイくんはそういう所Z要領良さそうだなと思いまして笑 私も、彼らの幸せそうな姿が書けて楽しかったです! (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - くろせさん» ありがとうございます! 昇華隊の野郎共はいいですよね!!(負けじと大声) (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - グレイ…とことんやるだけやって責任放棄ですか、そうですか← 幸せそうなみんなが見れて感無量です! (2019年12月31日 22時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
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