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今夜は新月だったようだ。
いつもは夜空を煌々と照らしているものがなく、ぽつぽつと置かれた灯だけが頼りとなる夜。それも、秋口の──ともなれば、どこからか郷愁の感が湧いてくるのか。
物陰で一人、煙草を吸う男がいた。
「水臭いなぁ、一人でこんな所にいるなんて。一本よこせ」
「……吸えねぇ癖に」
片方の口の端を上げながら、政士はヴァイスの方へライターと一本の煙草をやった。口を開いた拍子に、唇から煙が中途半端に漏れる。
ありがとよ、と返しつつ、煙草に火をつけるヴァイスの仕草は少しおぼつかない。
端がようやく黒くなったそれを口に含み──
「よ、くこんなん吸えん、な──不味っ」
盛大に咳き込みながら崩れ落ちた。どれだけの煙を吸ったのか、咳をする度に白い煙が空へ上がる。
「じゃあ欲しがるなっつーの。受け取ったからには最後まで吸えよ。高いやつなんだから」
ふう、と政士は再び空へ煙を吐く。何本目か分からない煙草は、もう既にかなり短くなっていた。
「それより、何でこんな所にいるんだよ。今日なら美味い酒と料理が定額飲み食い放題だぞ」
「現金だなぁ、お前」
冗談めかして政士は笑う。
それくらい強かじゃねえとな、とヴァイスもニヤつきながら返した。
「──でも、戻る気にはなれない、な。俺のことを探してる奴がいたら、『帰った』って言っといてくれ」
「了解。他に何か言いたいことは?」
「ねぇよ。これ吸い終わったら俺も帰るし。また明日──」
「──本当に良かったんですか、義忠さん!」
静寂に割って入った声に、ヴァイスに向けて手を振っていた政士の体が石像のように固まる。
やがて、声の主と思しき人影も現れた。少し背の低い、頭の良さそうな顔をした男と──。
「何が、だね。言葉は省略しないでくれ」
振り向きもせずに冷たく返すのは、政府の要職者。そして、ヴァイスも見慣れた青の──讃える色の性質は全く違うが──瞳を持つ者。彼が親しむ、燃えるような青と同じであるはずなのに、視線を向けられるだけで凍りつきそうになる瞳を持つ──政士の、父親だった。
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紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» なんですかねそれ尊すぎやしませんか?? そしてそれを桐箪笥さんが書いてくれる、と……(控えろ) (2020年1月1日 0時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - 紫清さん» なんだかその後に早朝、神社などに思った訪れて御籤を引いてみんなで甘酒でも呑むのかな…と想像してしまいました。ごめんなさい、つい…想像が止まらない… (2019年12月31日 23時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» グレイくんはそういう所Z要領良さそうだなと思いまして笑 私も、彼らの幸せそうな姿が書けて楽しかったです! (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - くろせさん» ありがとうございます! 昇華隊の野郎共はいいですよね!!(負けじと大声) (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - グレイ…とことんやるだけやって責任放棄ですか、そうですか← 幸せそうなみんなが見れて感無量です! (2019年12月31日 22時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
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