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「ふふ、それにしても久しぶりです。こんなに部屋が賑やかになるのは。まあ、いつもでも私が一方的に喋るから、うるさいといえばうるさいんですけど」
何でもないことのように、ぽろりと彼女が零す。
その言葉に呼応して、ふとある考えがヴァイスの中に浮かんだ。
馬鹿げた考えか、とも彼は思った。きっとこれは、いつもの親切心から生まれたようなものではない。独りよがりの償いのような。偽善のような。
「──よかったら」
何が「よかったら」だと頭の端で、誰かが自分を責める。
けれど、彼は──ある種、許しのようなものを乞わずにはいられなかったのだ。
「俺、二人のお喋りの手伝いってしたらダメ、かな」
「どういうことですか? 」
きょとんと明が首を傾げる。
察した密は、目をまん丸にした後──慌ててヴァイスの手に文字を書く。
『ダメです、能力を使うのは身体に負担が大きいと聞きました。仲立ちをしてくれるのはすごく嬉しいです。だから筆談を読んでくれるだけでも』
「それじゃダメだろ、会話というにはタイムラグが酷すぎる。あと、負担といっても大したものじゃないさ。──それに、俺がやりたいんだよ。我儘、聞いてくれないか?」
密は迷うように唇を二、三度動かした後──少し迷いつつも、前髪をかきあげた。
そこに右手を当てると──そこから流れ込んでくる、彼が彼女に抱く想いはあまりに暖かくて。和やかで。自然で。平和で。
緩く頭を締め付ける痛みが逆に際立ってしまうほど、それは美しかった。
「光は──」
その後の言葉を聞いた明の口角はみるみるうちに上がり、隙間からは、ふふ、と笑みが漏れる。先程までの楽しさからの笑い声ではなく、幸せからの笑い声。きっと、この世で一番美しい笑み。
その瞬間、確かにこの場は「幸せ」であった。
それが、どんな世界の上に成り立っているものであろうとも。
それが、どんな思いによって成されたものであろうとも。
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紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» なんですかねそれ尊すぎやしませんか?? そしてそれを桐箪笥さんが書いてくれる、と……(控えろ) (2020年1月1日 0時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - 紫清さん» なんだかその後に早朝、神社などに思った訪れて御籤を引いてみんなで甘酒でも呑むのかな…と想像してしまいました。ごめんなさい、つい…想像が止まらない… (2019年12月31日 23時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - 桐箪笥さん» グレイくんはそういう所Z要領良さそうだなと思いまして笑 私も、彼らの幸せそうな姿が書けて楽しかったです! (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
紫清(プロフ) - くろせさん» ありがとうございます! 昇華隊の野郎共はいいですよね!!(負けじと大声) (2019年12月31日 22時) (レス) id: 840643cfcd (このIDを非表示/違反報告)
桐箪笥(プロフ) - グレイ…とことんやるだけやって責任放棄ですか、そうですか← 幸せそうなみんなが見れて感無量です! (2019年12月31日 22時) (レス) id: c5094549cd (このIDを非表示/違反報告)
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