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目を開けると、窓から赤みがかった景色が見えた。
もう夕方になっていた。私、寝てたのか。

少し離れて、太宰さんが本を読んでいた。





太宰さん、と声を出すと泣き過ぎたのと寝起きなのとで掠れた声が出た。

「あぁ、起きた?」

薄く笑って此方へ近寄ってきた。

「体調はもう良くなった?君、すごく熱かったから……。」


太宰さんの冷たい手が私の頬に触れた。


何故だか視界が滲んで、慌ててばれないように涙を拭って起き上がった。

「ありがとうございました。私、もう帰りますね。」


髪の毛を整えて、外に出ようとしたその時。


「送っていこうか?」


気づかない間に近くまで来ていたようで、すぐ近くで声が聞こえた。


「大丈夫です。まだ夕方ですよ。」


少し振り返って、自分を騙すみたいに、元気よく声のトーンを上げた。

「太宰さんは本当に優しい人ですね。今回のことも、それ以外も。感謝してもしきれません。でも……っ」



一瞬、何が起こったのか分からなかった。
両耳のすぐそばで大きな音がした。

私が開けようとしていたドアが押さえられていた。


驚いて振り返ると、私は太宰さんに追い詰められていた。

その読めない表情を見て、思わず目をそらした。



「そうだよ、私は君に優しくしているんだから。」

「君のことが好きなんだよ。」


俯いたままでも、太宰さんとの距離が徐々に縮んでいくのがわかった。

「私に流されてはくれないのかい?」

悲しそうな声だった。

それを聞いて、
私はもういっそのこと、敦くんのことを忘れてしまおうと思った。


掴まれた腕の痛みも

理性を失って怒りの色に満ちたあの瞳も


照れくさそうに笑うその表情も……。


「私、流されてもいいですよ」


そう言うと、ふふ、と笑う声が聞こえて、太宰さんの手が私の頭を撫でた。


手が顎にかかって、顔を上げさせられる。

その瞬間、堪えていた涙が私の頬を流れた。



「好きだから」

太宰さんは私に顔を近づけていった。
ゆっくり、ゆっくり、近づけていった。




そして、私の耳元で、

“幸せになってね”

と、囁いた。




太宰さんはドアにかけていた手を離し、部屋を去った。



私は気づくと外に出ていて、ただ立ち尽くしていた。

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設定タグ:短編集 , 文スト , 恋愛   
作品ジャンル:アニメ
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秦弓月(プロフ) - お返事が遅くなりすみません。素敵なお話ありがとうございました。 (2018年12月29日 13時) (レス) id: deabd34961 (このIDを非表示/違反報告)
猫又 - 遅くなって本当に申し訳ありません!完成しました。 (2018年12月22日 1時) (レス) id: cc1fa790a0 (このIDを非表示/違反報告)
猫又 - あやなさん» 了解しました!なるべく早く投稿できるようにするつもりですが、少し遅れてしまうかもしれません。 (2018年9月15日 22時) (レス) id: f7b9203701 (このIDを非表示/違反報告)
あやな - その後、彼の側に居たいとポトマを出奔し、ボスの側近として敵組織に与してしまいます。彼女の異能力が悪用されることを恐れた首領から連れ戻すよう命じられた中也さんは…という感じです。よろしくお願いします。 (2018年9月14日 21時) (レス) id: deabd34961 (このIDを非表示/違反報告)
あやな - 猫又さん» 中也さんの方の設定が固まりましたので、コメントさせていただきます。全体のコンセプトは「中也さん×裏切り夢主」です。夢主は中也さんの幼なじみの異能力者で、補佐役を務めていました。しかし、ある時敵のボスに恋してしまいます。(続きます) (2018年9月14日 21時) (レス) id: deabd34961 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:猫又オイル | 作成日時:2017年3月14日 21時

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