美味しい時間をきみと

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お店のお客さんとはいえ、つい先日会ったばかりの男の人と二人でお花見をすることになってしまった。



「かんぱーい！」



明るいかけ声に少し緊張感がほどける。



「いやー、俺名古屋に３週間さ出張してたんだけどね、名古屋支社でもお花見はしたんだよ。でも上司も部下もいっぱいの中でさ、ゆっくり桜なんて見る暇なくて。森本さんのから揚げ買えたら、ここでちゃんと桜楽しみながら花見しよーって決めてたんだよね」


桜を見上げながら、から揚げをまたひとつ頬張り、リスのようなほっぺで北山さんが一気に喋る。



その姿をみて、この人は"パクパク"じゃなくて"モグモグ"が似合う人だなぁなんて思った。



「小川さんは、最近この辺に引っ越してきたの？」



「あ、そうなんです。引っ越してきたのはひとつき位前で、森本さんのお店で働かせてもらうようになって２週間ちょっとです」



「そうなんだー。前は別の仕事？」



「あ、えーっと、、、前は普通のOLでした」



前と言われると専業主婦だったけど、それを言うと北山さんが何の気なしに聞いてくれている話がややこしくなってしまうので、結婚前に１年だけしていた職業を咄嗟に答えた。



「へぇー」



「森本さんのお店には引っ越してすぐからお客さんとして通ってて。中田さんの後に入ってくる予定の方がダメになっちゃったという話をたまたま聞いて、私からお願いして雇って頂いたんです」



専業主婦だった部分を隠したことで少し嘘をついたような気持ちになって、働き始めたきっかけを聞かれてもいないのに説明してしまった。



「そうだったんだ。でもさ、そういうタイミングって、ちゃんと来るべき人のところに来るもんだよね」



優しい目でそう言ってくれて、私はとても嬉しくなった。





北山さんは入社をきっかけにこの町に引っ越してきたこと、営業の仕事をしていること、スポーツが好きでフットサルとかをしていること、料理は得意じゃないけど週末はたまに作っていること…



他愛ない話題も飽きることなく聞かせてくれて、合間には「小川さんは？」と私に話を振ってくれる。




ビールを飲み終えたらこの時間も終わってしまう気がして、ひと缶しか買わなかったビールがすぐになくなってしまわないように少しずつ飲んだ。

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