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『な？最低やろ、私』
倉「いや、え？どの辺が？」
こっちが落ち込んでいるというのに呑気なもので、目の前の男は悠々と肉をひっくり返している。
倉「俺からしたら、この歳でなに中学生みたいな躊躇い方してんのって感じやねんけど」
『うわ、めっちゃ馬鹿にするやん』
倉「そらそやろ。信ちゃんが好きやって言ってるだけやねんから、他の男キープしつつ、信ちゃん離れんようにするなんて、ようある話やろ？」
焦げ目のついた肉を全て自分の皿に乗せて、大倉はピッとそれを指した。
倉「とりあえず全部取っといて、」
彼の箸が、取り皿に山盛りある肉の中から焦げ目のないものを選び、ひょいと摘む。
倉「んで、ええもんをええタイミングで食べんねやん」
心底幸せそうな顔で、大倉は上手く焼けた肉を咀嚼した。
倉「あとはなんなとなるやろ」
残りの肉の乗った皿が、さりげなくこちらに寄せられる。
倉「焼肉と恋愛は戦争やで」
私は、大倉に見捨てられた焦げ肉を見つめ、ポツンと呟く。
『私は……そんな策略的に恋愛とか出来ひん』
倉「してるやん。自分が嫌われへんのええことに、信ちゃんに甘えまくってたんやろ？」
『それはそやけど……』
そこを突かれると何も言い返せない。
俯く私に、大倉の呆れ声が降ってきた。
倉「どこに何の罪悪感を感じてんの？なんも変なことないやん。付き合ってもないんやから」
その通りだ。大倉の言うことに間違いは無い。
駆け引きなんて、今まで何度も経験してきた。
吹っ掛けられたこともあった。
それが所謂大人になってしまった私たちの恋愛の在り方で。
告白をして、YESを貰うまで待って……なんて恋愛は、遠い昔にあるかないかだ。
そう、だから多分。
『信ちゃんやから…』
倉「うん。そやろな」
全て知った顔をして、大倉が優しい目のまま頷いた。
『信ちゃんだけは……傷つけたくなかったのに、傷つけちゃったから』
倉「シンプルに、信ちゃんのこと悲しませちゃったから、そんな落ち込んでんねやろ。菊池に甘えてるとこ見られたんに罪悪感感じてるんちゃうわ。あと、それまで甘えてたことに感じてたんでもないし」
『うん』
倉「だから別に、肉の選別してること自体に後悔してる訳じゃなくて、牛が殺されてる事実にやられてんねん、Aは」
『もう肉の例えはええわ』
飽き飽きとした私に対し、大倉は「ええと思ったんやけどな」と笑った。
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作者名：藻くずちゃん | 作成日時：2022年9月28日 16時
