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『いや、奢るから詮索せんでって言うたつもりやってんけど？』
倉「奢ってくれんのはありがとうやけど、俺、一言も詮索せんなんて言うてへんし」
『性格悪すぎん？』
肉も喉を通らなくて、溜息を漏らすことしか出来ない。
大倉はそんな私を見て、少しだけ寂しそうに笑った。
倉「ホンマ、Aは信ちゃんのこと好きやなあ」
『まあな……もうかれこれ20年以上一緒に居んねんもん』
勿論これは、大倉にも、他のメンバーにも言えることだけど。
倉「で？実際嫌われてみて、どうなん」
『……これでよかったんやなって思ってる』
私は信ちゃんに相応しくないなんて言って告白を断るくせに、弄ぶような真似をする卑怯な女。
だから信ちゃんは正解だ。私を捨てて。
思い詰めた顔を、大倉の澄んだ瞳が射抜いた。
倉「言うとくけど」
『ん？』
倉「多分、信ちゃん以上にAのこと好きになってくれる人おらんで」
真っ直ぐな声が辛くて、私は目を逸らした。
『わかってる』
倉「じゃあさっさと謝れば、」
『わかってるから！……もう、会いたくない』
彼の言葉を遮るように吐いた言葉は、刺々しく部屋中を刺した。
鉄網の焼けるしゅうしゅうという音のみが、部屋を満たす。
暫くの沈黙の後、私は薄く口を開いた。
『私、アイドルとして信ちゃんの横に居る西野Aは大好きやねん。でも、一般人になって、信ちゃんの前に立つ西野Aは嫌いや。死ぬほど』
一緒にいればいるほど、おかしくなっていく。
作曲の仕事を脇において、信ちゃんの夕ご飯を準備したり。
後輩からの連絡を後回しにして、信ちゃんに電話をかけたり。
私の本性が、尽くしたくてたまらないと疼くのだ。
嫌だ。こんな女になりたくなんかなかった。
アイドルを辞めても、ファンに胸を張れるような、そんな強い女性で居たかったのに。
だから私は、信ちゃん以外を選んだ。
他の全部を投げ打ってまで、信ちゃんの女でいることに固執したくない。
そんなの、何も叶えられない。
倉「Aが、」
長い長い静寂の後、大倉の低い声が、鼓膜を震わせる。
倉「そんな自分勝手に振る舞える相手は、信ちゃんだけやで」
何も言わずに下を向いていると、また、大倉はゆっくりと口を開く。
倉「全部、許してくれるんは、信ちゃんだけやで」
『……もう、許さんって言ってたから』
これでは埒が明かない。
私は、吐きそうになりながら、事の顛末を大倉に明かした。
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作者名：藻くずちゃん | 作成日時：2022年9月28日 16時
