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信ちゃんが隣に来て、思わず私は一歩脇に寄る。
村「別にええねん。手繋いだことなんか。恋愛感情なくても、手繋ぎたい時とかあるやろ普通に」
『……ある……か？』
まあそうやって解釈してくれたなら、それでいいか。
私が妙な執着をしてるとバレないならなんでもいい。
見捨てないでいてくれるなら、なんでも。
ただ、大好きな信ちゃんには、面倒でありきたりな私みたいな女を追いかけないでほしいのも本心だ。
ほら、やっぱり私は嫌な女。
今のままの、程よい距離感で居たい一心で、保身ばかりする典型的な女。
ぐるぐる考え事をする私をじっと見つめてから、信ちゃんは苦笑した。
村「俺はここ数日で、お前に腹の底の底まで全部見せてんで」
『ん？……うん』
村「好きやって気持ちもちゃんと伝えてきたつもりやし」
『そやな』
村「ちゅーことでやな、」
大きな黒目に夜景が浮かぶ。
仄かに光を受けた横顔は年相応に色気を醸していた。
村「お前の考えてることも教えてほしいわ。全部」
『全部は無理。幻滅するで』
村「今更せんて(笑) こっちはお前の鼾まで聞いたことあんねんから」
『鼾よりえげついこと考えてるかもしれんやろ』
村「それはそれでまた惚れるなあ」
『あほちゃう(笑) 』
思わず笑いをこぼすと、信ちゃんも嬉しそうに頬を緩めた。
村「夢見た恋愛してた時期はとっくの昔に終わってるわ」
『23年もんやもんな』
村「そや。なかなかの上物やで」
私のモヤモヤを冗談に還元した上で笑ってくれる優しさに、胸の奥がぎゅうと痛くなった。
『嫌いになるなら今のうちやのに』
村「しつこいぞ、お前」
『痛った』
デコピンに唇を尖らせて、私もどうにか湿気た空気を吹き飛ばす。
『甘えたくなった理由さ、』
村「おん」
『多分寒かったからやわ』
村「……なんやそのオチ」
呆れ声の彼は本質を見抜いているだろうか。
寒くて、凍えそうになった時。隣にいて繋がっていたいと執着してしまうのが信ちゃんなのだと。
恋愛感情もないのにそう思ってしまう、私の醜い本質を。
村「まあそういうとこが好っきゃねんけどな」
『4回目』
村「あっ」
どうやら予定外の告白をしてしまったようで、信ちゃんは手を口に当てた。
その仕草が可笑しくて、私は心の底から笑う。
村「帰ろか」
『うん』
なんだか妙な気持ちになりながら、私たちは手を繋いで階段をゆっくりと下りていった。
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作者名：藻くずちゃん | 作成日時：2022年9月28日 16時
