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信ちゃんは器用に玉ねぎをフライパンに移して、火にかけた。
村「諦めると思ってたか？」
『フッたやん、私』
村「確かに。普通に無理って言われたもんな」
『……それはごめん』
横顔を見る限り、信ちゃんは怒ってはいないようだった。
村「まあ、大方予想通りやわ」
『なんそれ(笑) 』
何故か満足気に、彼は卵を溶き始める。
村「どうせ1回目は、聞いてすぐフッてくるんやろなとは思ってたからな」
『分かりやすい人間ですみませんね』
村「いや、ええよええよ。分かりやすいおかげで、あと9回告白したら付き合えること分かってんねんから」
『あと9回も告られんの……？』
ドン引きする私を前に、信ちゃんはハッと口に手を当てた。
村「あっ、いつどこでかはまだ内緒やで」
『事前申告される方が困るわ』
動揺を隠しきれない私に反し、ずっと余裕な素振りの信ちゃん。
一体どこにどう自信があると、ここまで積極的にアプローチできるんだろうか。
というか、今までこのアプローチで何人の弱気な女の子たちが絆されてきたんだろうか。
『別に口説くんも告白すんのもええけど、自分の仕事蔑ろにしてまでウチ来やんでや？今日だって……なんでこんな急に』
村「今日はほら、たつくんが「A、グウタラしてるっぽいでー」言うて教えてくれたから」
『あー……なるほど、大倉ね』
昨日の電話を切る間際の含みは、そういう事だったんだろう。
どうやらあの男は適当ながらも信ちゃんを応援するつもりでいるらしい。
頭を抱える私を見て、信ちゃんは小首を傾げた。
村「それに仕事蔑ろにはしてへんぞ。自由時間は全部ニシに使う気でおるけど」
『う……重っ……』
村「23年分やからな」
ドヤ顔をされても、怖いだけだ。
『やめときって。もっと有意義なことに時間使った方がええで』
村「好きやねんからしゃーないやろ。それにアイドル辞めて恋愛解禁されたんやから、いつ何処の馬の骨とも分からん小僧に出し抜かれるともわからんからな。使える時間は全部使うで」
エッヘンと効果音が聞こえてきそうな言葉も、恐怖を煽る。
『信ちゃんは私のこと、なんや思てんの』
村「ニシは可愛いし綺麗しおもろいしええ子やからな。俺も油断出来ひんわ」
『どこをどう見てそう言ってんのか分からん上に重いって……』
カツをフライヤーに入れて、私は手を洗った。
『信ちゃん』
村「なんや」
『話があります』
彼の真ん丸な目がさらに丸くなった。
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作者名：藻くずちゃん | 作成日時：2022年9月28日 16時
