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『皆の反応はええからさ……信ちゃん、怒ってた?』
倉「怒るようなこと言うたん」
『……まあ』
ふぅん、と呟いて、暫くの静寂が場を支配する。
ここで絶対、どんな告白だったかとか何を言ったのかを聞いてこないあたりは信用しているけれど、大倉は全部他人事にする癖がある。
どうせマトモなアドバイスは貰えないだろうと腹を括っていたのに、存外ちゃんとした口調で大倉は私を諭してきた。
倉「信ちゃんは、多分Aには怒らんで」
『え?』
倉「ってか、こういう系で怒れんと思う。好きにしたらええよって言うだけや」
……確かに、私が信ちゃんに怒られるのはいつも、私が嫌な目に合いそうな時だけだった。
私の意見に反対したことは無いし、何を言っても「そうか」で済ませてくれていた。
『……恋愛感情ありきの関係やったんかな』
漏れ出てしまった呟きに、大倉は頭を悩ませているようだ。
沈黙の後、ようやく言葉を選んで返答があった。
倉「信ちゃんが、そんな人やと思う?」
『そんな人ちゃうって分かってるつもりやけど……今までずっと、そういう目でしか見られてへんかったってなると、さぁ。それありきの優しさやと思ってまうやん』
倉「潔癖すぎるんちゃう?それは」
そうかもしれない。ただ、私はどうしても。信ちゃんの恋愛感情を受け入れられなかった。
頭がついてきても、心がついてこないのだ。
倉「……信ちゃん、言うてたで」
『え?』
倉「やっと女の子になってくれる、って」
『はあ……?』
やっとも何も、そもそも私は女なのに。
倉「A、よぉ言うやん。男に生まれたかったー!って。そしたら、もっとアイドル楽しめたのにー!って」
『うん』
倉「信ちゃんにとったらさ、大好きな女の子のAを、A自身に否定されてるような感じやってんて」
『でもそれは、』
私の反論は、大倉の厳しめの声で制された。
倉「だから。だから、Jrん時からずっと、告白せんかったんやで?信ちゃんは。まだグループない時に、いくらでも告白する機会はあったのに。Aが自分のこと認めれるようになるまでは我慢やーって」
そうやって、言ってた。
そう呟く大倉の言葉を聞くにつれ、私の胸はキシキシと痛む。
分かっていたつもりだった。信ちゃんが恋愛感情を最優先にするような、そういう人じゃないというのは。
だからこそ、怖かった。
私は今まで、彼に何を我慢させてしまっていたんだろう。
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作者名:藻くずちゃん | 作成日時:2022年9月28日 16時