・ ページ11
・
村「 大体リサーチ済み 君の大好物並べたい」
横「もちろん全額 こっち持ちだって」
『「紳士ぶってウケる」とか言う 」』
Aの凄いところは、男目線の歌詞でもそつ無く歌いこなせるところにあるなとふと気づく。
今のだって、女性のAが言った女性の言葉としてではなく、男性が女性の言葉に不満を持ってボヤく真似をした歌詞にちゃんと聞こえた。
こういう、才能ありきのセンスが抜群に飛び抜けているのが西野Aというジャニーズだった。
この曲のAの歌割りは少ない。ほとんどすばるくんと亮くんの曲だ。
それでもこの曲を選んだのは、ヨコヒナとの歌唱部が多いからだろう。
カメラに軽く背を向けてまで、Aはヨコヒナに目を合わせにいっていた。
フルサイズで演奏を終えると、すぐに忠がカウントを取る。
『ようこそ』
カメラが手を伸ばすAに導かれズームして、その先でAがくしゃりと鼻にシワを作ってウインクをする。
ここにしかない景色、なんてこの状況にピッタリの曲を持ってこれる才能が羨ましい。
というか、勿体ない。
アイドルは引退しても、後輩のプロデューサーなんかを続ければいいのに、本人が全くその気になっていないんだから不思議なものだ。
安「僕らは偶然の中で出会って」
『同じ時を共に生きている』
Aにとっては、偶然出会ったこの7人と以外、時を共有したくないのかもしれない。なんて重たいことを不意に考えてしまった。
なんというか、選曲のメッセージ性が強すぎるのだ。Aの作ったセトリは。
曲を終え、A以外の7人が順々にカメラに抜かれる。
その間に、Aはグランドピアノの元へと移った。
すばるくんがギターを構える。
二人の暖かい音色に、亮くんがブルースハープを重ねた。
丸「やがて明けゆく 願わず歩く 別れは辛い それでも行く」
ああ、もうすぐ終わる。なんとなくそんな気がした。
このライブは、きっとAにとっての夢への帰り道だ。
最近ずっと本調子じゃなかったAが、アイドルらしいアイドルへと還るためのライブ。
伴奏を弾き終えて、Aは微笑を浮かべた。
客席にカメラが向いて、先輩たちや後輩たち、そして私たち同期が手を振る中、Aはまた、バンドセットの中に戻る。
そして、ヴァイオリンを肩に乗せ、長い髪を払った。
93人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:藻くずちゃん | 作成日時:2022年9月28日 16時