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『来てたんや。久しぶり！おつかれさま！』
酔って後輩にしなだれかかっていたのを叱責されるに違いないと踏んで、私はすぐに甘えた顔を作った。
義足を外し、靴を脱ぐ。
なんだかんだこうやって抱きつけば、有耶無耶に流してくれるだろうと、太めの首に両腕を伸ばす。
と、その時。
『え、』
ぱしんと無機質な肌の音が響いて、私の体がぐらついた。
村「あっ……すまん」
振り払われた。伸ばした腕を、信ちゃんに振り払われた。
倒れそうになる体を支えてくれたのは信ちゃんだったけれど、その倒れそうになる原因を作ったのも紛れもなく信ちゃんだ。
自分から私の腕を払ったくせに、その行動に彼は目を丸くしていた。
村「大丈夫か」
『……うん』
そろりと立ち上がった私を見て、信ちゃんはぎゅうと目を細めた。
村「帰るわ」
『えっ、なんで』
慌てて引き留めようとするも、彼は首を振る。
村「すまん」
『……どうしたん。なんでそんな、急に』
いつも通り、なに酔ってんねんと口うるさく文句を言われて、そして私がごめんねと笑顔で謝って、それで済むことだと思っていたのに。
躊躇う私に向かって、信ちゃんは硬い声を絞り出した。
村「許せると思ってた」
『え？』
脈絡のない言葉に、クエスチョンマークが浮かぶ。
村「今まで、何回も……それこそ一億回くらいは、嫉妬して……そんでそれ、隠してきてたから」
震えるような声が苦しい。
村「けど、やっぱアカンわ。ちょっと期待させた後に、それは。ちょっと、耐えられへん」
『しんちゃ、』
呼びかけに応じず、彼はドアから出て行った。
追いかけようと足を踏み出した瞬間、私を支えるそれは機能しなくて惨めに玄関に倒れ込む。
そっか、さっき義足外したから。
外の足音はどんどん遠ざかって行った。
追いかける足がないのを言い訳に、私はいつまでもそこに座り尽くす。
分からなかった。
いや、分からないふりをしていた。
分からないふりをしたかった。
何も知らない子どもみたいな顔をして、いつまでもいつまでも程よい「友達以上恋人未満」で居たかった。
信ちゃんの優しさの上にあぐらをかいていた。
酷い女だ、私は。
信ちゃんが告白する度に、見たことないくらい切ない顔をするのを見ていたのに。
それなのに、私は。
取り返しのつかないことをしてしまった不安で、指先が震える。
途方に暮れる私の元に翠とちーちゃんがやって来て、にゃあと咎めるように鳴いた。
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作者名：藻くずちゃん | 作成日時：2022年9月28日 16時
