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『……マジやん』
村「真剣や言うてるやろ」
上座に促されて奥に腰かける。
村「何飲む？」
『ジントニックで』
村「俺はノンアルでなんか適当に。あとツマミも」
「かしこまりました」
ぬるりと消えていく店主の「慣れてる感」が半端ない。
恐らく、芸能人の密会の場によく選ばれる店なのだろう。
そんな所を平日とはいえ年末の書き入れ時に貸切だなんて、一体この男の人脈はどうなってるんだ。
村「なんや」
『……いや、なんも』
大きな目を不思議そうに見開いて、腕時計をなおす姿は、完全にデキる男だった。私の知ってる信ちゃんじゃない。
『どうなん、仕事。忙しいんやろ？』
村「来週…再来週あたりがヤバいんちゃうか？」
『あー、音楽番組と特番と紅白のリハと雑誌重なる時期か(笑) 』
村「そうそう。なんやよう分からん内に一日終わってるやつや」
『家帰った瞬間寝落ちるやつな』
経験として知ってはいるけれど、もう私がそんな年末を過ごすことは無い。
今年からは完全にテレビ越しに師走を駆け抜ける7人を見つめて年越しをするのだろう。
『しかも特番去年より増えてなかった？』
村「ふたつ増えたかな。年始の方が生放送多めで忙しいねん」
『なんかしとくことあったらすんで。ちーちゃんの相手とか』
村「ええんか？」
『全然ええよ。ちーちゃんが嫌じゃなかったら……あ、ありがとうございます』
店主が続々と大皿を持ってくるから、一度話を止める。
「失礼しました」
『いただきます』
小さく会釈すると、薄く微笑まれた。紳士的な店主が去っていくのを見送って、私はサラダに箸をつけた。
『美味しそ』
村「ほな、預けていいか？」
『ん？』
チョレギサラダに舌鼓を打っていたところに急に問いかけられて、思わず首を傾げた。
『何の話？』
村「うそやろ(笑) 」
『あれ、何の話してたっけ。えーっと、』
苦笑いを前面に出して、信ちゃんが口を開く。
村「ちーのこと。預けてええか？」
『あ、ちーちゃんね！預けるってウチに？』
眉を顰める私に対し、彼はさも当然かのように頷く。
村「いちいち俺の家まで来るん面倒やろ。あの子、割と初めての場所にはビビらんから」
『私はええけど』
むしろ天使が2匹になるなんて願ったり叶ったりだ。
ただ、信ちゃんが天使に会う機会が減ってしんどいんじゃなかろうか。
そう心配する私の感情を読み取ってか、信ちゃんはフフンと鼻を鳴らした。
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作者名：藻くずちゃん | 作成日時：2022年9月28日 16時
