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信ちゃんは言葉を続ける。
村「でも、無理なもんは無理やった。俺はお前が好っきゃし、諦められへん」
『なんでそんな…』
私なんて、アイドルを辞めてしまえば何処にでもいるオバサンだ。
いやまあ何処にでもは居ないかもしれないけれど、とにかく、そこまで執着するような価値のある女じゃない。
村「好きになった理由か？」
『……聞けるなら聞かせて』
村「言わんわ。まあ付き合うてくれたら教えたるけど」
『せっこ』
ギリギリと睨む私の目線をあしらって、信ちゃんは勝ち誇った笑みを浮かべた。
村「ええねん。セコい言われても、何言われても。だって何もルールは破ってへんわけや。オマケに、ニシも女の子に戻れてんねん。誰に何言われても、俺はお前と付き合う」
『強情すぎて怖いんやけど』
こちらも疲弊しきった溜息を漏らすと、信ちゃんがポンポンと私の膝を叩く。
村「ニシ」
『なに？』
村「可愛いな。付き合お」
上目遣いと慣れた褒め言葉に、ほんの少しだけたじろいでしまった。
『…………ポップに言うても、無理なもんは無理！！！』
村「これでもアカンか。なかなか可愛えはずやねんけどな」
『なに自分で言うてんの』
むくれる彼に背を向けて、私はキッチンに向かった。
『ほら、カツ丼食べるんちゃうの』
村「食べるわ。腹減ったぁ」
『ビール？』
村「おん。さすがやな」
『こんなん猿でも出来るて』
信ちゃんがほとんど作りあげていた卵でカツをとじ、三葉を上に添えた。
運ぼうとする前に彼が飛んできて、お盆はいつの間にか奪われる。
村「ありがとう。好きな子の手料理はやっぱ堪らんわ」
『………もう好きにして』
嬉しそうにレンゲをご飯に差し込んで、信ちゃんの口がいっぱいに膨れ上がる。
こんな軽いジャブで今更信ちゃんに惚れることはまずないからいいけれど、この計画性の鬼がこれくらいのアプローチで我慢しているはずがない。
それが今から怖くて仕方なかった。
村「あ、そや。やっぱり明日は来られへんわ」
『いやそんな毎日の約束してへんし』
村「代わりに明後日の夜、ちょっと一緒に出かけよ」
『勝手やな。私にも予定とか、』
村「翠と遊ぶだけやろ？」
『……まあ』
不服ながら認めると、信ちゃんは優しく笑った。
村「小綺麗なレストランからのドライブデートや。楽しみやな」
ほら、やっぱり企んでた。
ガチガチに口説き落としにかかってくる元同僚を尻目に、私は大きく項垂れた。
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作者名：藻くずちゃん | 作成日時：2022年9月28日 16時
