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『泊まってくよな？』
村「いや、帰るー……かな」
『え、そうなん。タクシー呼んどこか？』
村「まだええわ。ちょっと話あって来てん」
『話？』
お酒とほんの少しのおつまみをローテーブルに移して、信ちゃんは私に手を差し伸べた。
村「ほら、手」
『……うん(笑) 』
村「何わろてんねん」
『なんもないよ(笑) 』
本当は、私はもう一人でもほぼ動ける。そのためにリハビリしてきてたし、多分信ちゃんもそれは分かってはいるはずだ。
ただ、最近彼の前ではライブ用の重めの義足で居ることがほとんどだったから、車椅子だの抱っこだのが普通になってしまったらしい。
当たり前のように私を抱き上げる信ちゃんがたまらなく可笑しかった。
そして、なにより。アイドルじゃない私でも甘やかしてくれるのが嬉しい。
そっとソファーに下ろしてもらってから、私はお酒を口にした。
『仕事でなんかあった？大丈夫？』
今日、遅れてきた原因もそれかな…なんて予想する。あんなに謝る信ちゃんは珍しかったから。
ただ、予想は大外れしたみたいで、信ちゃんは「いや、」と首を振った。
村「ニシ、お前今、どうなん。恋愛の方は」
突然の質問に、フリーズする私の脳みそ。
確かに、私たちは今まで深い話を何度もしてきた。
考え方だったり、生い立ちだったり。
でも……いや。
『なっ……え？うん。恋バナ？マジで？私と信ちゃんで？』
村「恋バナって……若い子じゃあるまいし」
『さすがに怖すぎやろ』
村「ほんでどうなん」
面倒なスイッチが入ったのか、若干いじるテンションの信ちゃんをあしらうために、私は正直に答えた。
『前の彼氏は事故る前の病んでた時期に別れた。そっからはリハビリに精一杯でなんもなし』
村「なんやえらいハッキリ言うなあ」
『アイドルちゃうもん。アイドルやってた時は、大倉にすらそんな話してへんかったで』
村「もう普通の女の子やもんな」
『まあな。女の子ではないけど』
少しだけ、信ちゃんの目が光った。
村「もう、男になりたいとか思わんか？」
『……まあ、うん。だってジャニーズちゃうし』
村「そうか」
回りくどい質問が意味不明で、訝しげな顔になっていたんだろう。
翠がニャアと鳴いてどこかへ逃げて行ってしまった。
『なに？どしたん？なんか変やで、信ちゃん』
村「うん。俺……変やねん」
『はい？』
何を言っているんだと眉を顰めると、信ちゃんは眉を垂れさせて笑った。
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作者名：藻くずちゃん | 作成日時：2022年9月28日 16時
