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カ「あれ、りょうくんだ」
り「やっほー」
ニコニコ顔だったカンタが、私の目を見るなりタクシーの中で後退りをする。
カ「えっ、なに？なに？なんで？」
『ガンダァあ………』
カ「いや、怖い怖い！」
引き気味の運転手さんに扉を開けてもらって、私はカンタの隣に滑り込む。
り「ってことで、後はよろしくね〜」
カ「まっ、待って！りょうくん！ちょっと待って！」
半泣きのカンタに無常に手を振って、りょうは車から離れた。
カ「俺、どうすればいいの？！？！」
り「案外カンタみたいな変わった人の恋愛観の方が、Aにいい影響あるかもしれないから」
カ「恋愛？！何の話？！」
り「Aもメンバーの俺には言いにくいだろうしさ」
カ「ちょっ、」
り「ばいばーい」
大きな手のひらをヒラヒラさせたりょうが、遠ざかっていく。
カ「えっ、えぇ。ええ……？」
カンタは絶望的な表情で、豆のように小さくなったりょうを見つめた。
カ「とっ……とりあえず、言ってたお店までお願いします」
運転手に指示をして、彼はオドオドと私の背に手を回す。
街明かりを背負ったカンタは、いつもより大人びて見えた。
カ「だっ……大丈夫？」
『大丈夫……』
カ「そんな泣いてんのに…？」
不安げな顔はしつつも、決して無理に聞き出そうとしない。
カンタのそんな優しさが、嬉しかった。
『あのね、てつやにね……フラれたの』
カ「はい？」
りょう同様、目を丸くする彼に一部始終を伝える。
ただ、カンタはりょうとは違って、一度も私の話を遮らなかった。
カ「えっと……じゃあ、Aは今、てつやにフラれたから泣いてるってこと？」
『……ううん。泣いてるのは、てつやに嫌がられたのが悲しいのと、自分の気持ち訳わかんないのとで』
きっとさっき叫んだ時に、彼は私を面倒な奴だと思ったに違いない。
それが辛かった。
恋心を否定されたのは、仕方がない気もする。
てつやは誰よりも周りが見えている人だから。
もしかしたら、本当にそうなのかもしれない。私は彼のことを、好きなんて訳じゃないのかも。
でも、本当にそうだとしたら。
そうだとしたら、いつも皆が言ってくれる私の長所……なんでも素直に伝えられる、その長所が悪影響でしかなかった。
一瞬の思い上がりでてつやを困らせて、挙句の果てに無駄な言い合いをしてしまった。
『素直な自分が、嫌になる』
ポツンと浮かんだ呟きは、宵闇に溶けていった。
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作者名：蚕虫 | 作成日時：2022年6月17日 1時
